学長室だより
ダビデの物語・プロローグその1
古代イスラエルの法に関わる主題からルツ記を取り上げてきました。ルツとボアズから生まれたオベドは、ダビデの祖父にあたります。オベドからエッサイが生まれ、エッサイからダビデが生まれたことを記してルツ記は終わります(ルツ記4章22節)。ルツとボアズの物語は、ダビデの王宮で伝承されたと思われますが、ダビデの治世は紀元前1004~965年です。
イスラエル民族の歴史を伝える旧約聖書ですが、ルツがモアブの女性であることを隠さずに伝承しています。マタイによる福音書の冒頭にあるイエス・キリストの系図に4人の女性が登場します(マタイによる福音書1章1節以下)。ユダの嫁タマル、ボアズの妻ルツ、ウリヤの妻、そして神の御子を宿すマリアです。タマルは危険を顧みずレヴィラート婚を利用してユダの子を宿した女性です。清楚なイメージで読まれるルツとマリアはその中でも特筆すべき存在ですが、どの女性も子供を身ごもります。ウリヤの妻がダビデに生んだ子、そのソロモンが王位を継承するのです。歴史が転換する時に誕生する子供とその母に、聖書は注意を向けています。人間の思惑が支配しているような世界で、神の前に生きる人間に目を注ぎながら歴史を語るのです。(鈴木 佳秀)