学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その56

「そのころ、アヒトフェルの提案は、神託のように受け取られていた。ダビデにとっても、アブサロムにとっても、アヒトフェルの提案はそのようなものであった。」(サムエル記下16章23節)とあり、政府高官の立場は、仕えている王に最善の政策を提言するのが務めなので、それを王が採択してくれるかどうかが分かれ目でした。アヒトフェルが提言した策は、ダビデ王の側女たちのところに入ることで、アブサロムが主権を奪い取ったことを内外に誇示することにありました。屋上に天幕を張って、白日の下で行われたのはそのためです。
しかしこの事態は、ダビデに向かってナタンが「主はこう言われる。『見よ、わたしはあなたの家の者の中からあなたに対して悪を働く者を起こそう。あなたの目の前で妻たちを取り上げ、あなたの隣人に与える。彼はこの太陽の下であなたの妻たちと床を共にするであろう。あなたは隠れて行ったが、わたしはこれを全イスラエルの前で、太陽の下で行う。』」(下12章11節〜12節)と預言していたことでした。この叙事詩では、バト・シェバの夫ウリヤの報復として、神ご自身がこのことをダビデに対して行うと語っています。
アブサロムは、神に用いられた器なのでしょうか。彼の無念さを思うと、割り切れない思いが残ります。妹タマルを陵辱したアムノンに、父として何の処罰も行わず放置したからです。アブサロムにとっても、報復だったのです。(鈴木 佳秀)