学長室だより

ダビデの物語・ダビデの台頭史その54

「イスラエルの全部族はヘブロンのダビデのもとに来てこう言った。『御覧ください。わたしたちはあなたの骨肉です。これまで、サウルがわたしたちの王であったときにも、イスラエルの進退の指揮をとっておられたのはあなたでした。主はあなたに仰せになりました。「わが民イスラエルを牧するのはあなただ。あなたがイスラエルの指導者となる」と。』」(サムエル記下5章1節~2節)。ペリシテ軍の前に彼らは無力感を抱き、ダビデのもとにはせ参じたのです。その口上を見ると彼らの苦境がよく分かります。自分たちを指揮して一緒に戦ってくださったでしょう、とダビデに持ちかけています。骨肉という表現からも彼らの思いが分かります。「あなたがイスラエルの指導者となる」という言葉は、サムエルが語った言葉か、他の誰かが語った言葉なのかは不明です。
長老たちがヘブロンに来たのはダビデを王として受け入れるためです。「ダビデ王はヘブロンで主の御前に彼らと契約を結んだ。長老たちはダビデに油を注ぎ、イスラエルの王とした」とあるのですが、この契約締結が重要でした。ダビデはサムエルによって油を注がれていますから、長老たちがダビデに油を注ぐのは場違いなのです。契約締結の儀礼的会食だけでは心配なので、敢えて油を注いだのかもしれません。危機意識の表れでした。(鈴木 佳秀)