学長室だより

2002年7月12日号

「身を捨ててこそ浮かむ瀬はあれ」というコトワザは味わい深いものです。「一身を犠牲にする覚悟があってこそ物事は成就することができる」という意味だと『広辞苑』は教えていますが、ぼくは長らく言葉通りに理解してきました。つまり何かに対して身構えると、緊張のあまり失敗することがある。溺れかかったなら、先ず仰向けになり、すべてを放棄して全身から力を抜くのです。そうすれば自然に体は浮き上がります。いい詩を作ろうとして身構えると、いい詩はできない。頭から力を抜いて、自然に身を委ねるとき、忽然としてよいイメージが啓示され、最良の言葉が最良の順序で立ち現れるのではないでしょうか。もちろん、それが可能になるために、ミツバチが蜜を集めるように、日頃こつこつと言葉とイメージを精神にインプットしていく必要がありますが。(北垣 宗治)