学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その99

「ソロモンは父ダビデの王座につき、その支配は確立した。」(列王記上2章12節)ダビデ王の死を簡潔に報じた後に置かれた言葉ですから、末尾を飾る言葉として相応しいと言えるかもしれません。「ダビデ王位継承史」の存在を見いだした研究者は「その支配は確立した」との言葉をもって叙事詩の締め括りとする可能性を認めていますが、同じ46節bには「こうして王国はソロモンの手によって揺るぎないものとなった。」とあります。この言葉こそが、実は締め括りの言葉なのです。その間に何が語られているのでしょうか。事を起こしたのはアドニヤです。「ハギトの子アドニヤはソロモンの母バト・シェバのもとに行った。彼女が、『穏やかな事のために来たのですか』と尋ねると、彼は、『穏やかな事のためです』と答えた。彼が、『実はお話ししたい事があります』と言葉を続けると、彼女は、『話してごらんなさい』と答えたので、彼は言った。『ご存じのとおり、王位はわたしのものであり、すべてのイスラエル人はわたしが王となるように期待していました。しかし、王位は移って弟のものとなりました。主のお計らいによってそうなったのです。今、お願いを一つ申し上げます。断らないで下さい。』彼女が、『話してごらんなさい』と言うので、彼は言った。『あのシュネムの女アビシャグをわたしの妻にしていただけるように、ソロモン王に頼んでください。あなたの願いなら王もお断りにはならないでしょう。』」アドニヤは、自分こそが王となるべき人間だったとまだ考えていたことが分かります。王母となったバト・シェバに、ダビデの側室であったアビシャグを妻にと求めたのです。そこに密かな企みが隠されていたのです。(鈴木 佳秀)