学長室だより

ダビデの物語・サウルの活躍その11

王となったサウルに強力な常備軍があったわけではありません。二年かけてイスラエル諸部族の中から三千人をえりすぐったとサムエル記は伝えています(上13章1節~2節)。サウルの息子ヨナタンが千人隊を率いゲバに配置されていたペリシテ人の守備隊を打ち破った時から、ペリシテ人との全面的な戦いに巻き込まれます(3節~4節)。
ペリシテ人は前13世紀頃ラムセス三世統治のエジプトに侵入しようとして撃退された海の民で、アモス書9章7節によればカフトルつまりクレタ島から来たギリシア系の民でした。ナイルのデルタ地帯から北の東地中海沿岸にアシュケロン、アシュドド、エクロン、ガト、ガザからなる都市国家連合を形成し、強力な軍事力を背景に全カナン地域の支配を狙っていました。彼らは青銅製の槍や剣を作る技術をもっていましたが、イスラエルにそのような技術はまだありませんでした。「イスラエルにはどこにも鍛冶屋がいなかった。ヘブライ人に剣や槍を作らせてはいけないとペリシテ人が考えたからである」(上13章19節)と考古学的なメモが残されているからです。
強大な軍事力を前に、サウルは神にのみ信頼して戦う道を歩まざるを得なかったのです。