学長室だより

「困難に立ち向かう覚悟」(2020.5.8 C.A.H.入学礼拝)

 

 

 「狭い門から入りなさい。滅びに通じる門は広く、その道も広々として、そこから入る者は多い。
  しかし、命に通じる門はなんと狭く、その道も狭いことか。それを見いだす者は少ない。」(マタイ7:13)
 「あなたがたを襲った試練で、人間として耐えられないようなものはなかったはずです。神は真実な方です。
  あなたがたを耐えられないような試練に遭わせることはなさらず、試練と共に、それに耐えられるよう、逃れる道をも備えていてくださいます。」(Ⅰコリント書10:13)

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。今年は今まで新型コロナウイルス禍で異例続きの1か月でした。この大学でも全国のほとんどの大学でも、初めて入学式が行われませんでした。またこの大学でも全国のかなりの大学でも初めての遠隔授業が始まりました。そこで、入学式に代えて最初のチャペル・アッセンブリ・アワーを入学礼拝に代え、このような遠隔形式で行うことにしました。新潟県が緊急事態宣言地域から外れたら、大学の授業も対面形式の授業に戻していくつもりです。

このような感染症の世界的流行による甚大な被害は、日本では初めての経験ですが、サーズ、マーズ、新型コロナと最近では10年ごとに繰り返しています。これは世界のグローバル化とも深い関係があります。今後もさらにこのような感染症による被害は起こるのです。大学などが閉鎖されたり、授業がなくなったりすることはめったにありません。しかし長い歴史を紐解くと、実は今までにも何回かあったことです。今から80年近く前の太平洋戦争時には学生たちが大学の授業を止めて戦争に駆り出されたことがありました。今から50年近く前の私が高校3年生の時には4年近く続いた大学紛争の最終局面の時で、多くの大学では授業ができずに封鎖され、東京大学では入学試験が中止になったことがありました。今年の新型コロナウイルス禍は、期間は太平洋戦争期や大学紛争期ほど長引かないと思われますが、当時の学生数とは比較にならないほどの多くの学生が影響を受けているので、それと匹敵するほどの困難さを日本中の大学が直面しています。

皆さんは今人生で最も大切な4年間の大学生活を始めようとしています。この4年間は今後平均寿命では70年近く生きる人生の土台作りをしていく大切な4年間だということを肝に銘じてください。この4年間の始めから例年にはない新型コロナウイルス禍という困難な中で大学1年生を始めなくてはなりません。この時期を学生の皆さん一人ひとりが乗り越えていくばかりでなく、教職員が一丸となって学生を支援しつつ乗り越えてまいります。その中で大切なことは、不安の感情の中でウイルスを恐れるのではなく、理性とデータに基づいて恐れることです。不安の中で立ちすくむのではなく、困難に立ち向かう覚悟をもって立ち上がることです。

皆さんの今後の人生の中でも、何度か大きな困難に直面することがあるでしょう。そのために2つの聖書の言葉を贈ります。第一は、「狭き門より入れ」です。大勢の人々が歩む大道ではなく、自分にしか歩めない小路を歩むことを勧めます。今から120年程前に内村鑑三という人が、20歳前後の学生たちの前で『後世への最大遺物』(人生で何を残すか)という講演をしました。第一に、何をするにもお金がいるからお金もうけをしてお金を残しなさいと勧めました。しかし金儲けにも才能がいります。第二に、土木や建設などの事業を残しなさいと勧めました。これも才能がいります。第三に、教育や文学芸術などを通して思想を残しなさいと勧めました。これにも才能がいります。最後に誰にでもできることとして、自分らしい生き方を残しなさいと勧めました。それを内村は「勇ましく高尚なる生涯」もっとも立派な生涯だと言いました。自分らしく生きていきましょう。

私たちはたった1回しか生きられません。この世に生まれてきたのは何か目的があるはずです。人の顔が違うようにみんな違います。みんな違ってみんないいのです。自分らしい生き方とは何かと気がつくにも時間がかかります。最も自分にふさわしい生き方とは何かをこの4年間の間に考えていただきたいのです。そしてより自分らしい生き方の方に進んでいってほしいのです。その第一歩はありのままの自分を受け入れることから始めましょう。自己受容です。その中で自分の長所は何か、短所は何かを考えて、長所を伸ばし短所を補う方法を考えていただきたいのです。そういう中で校歌の一節にあるように「名もなく弱く傷ついた人に寄り添う」ことも考えていただきたいと思います。最後に困難な壁にぶつかったらもう一つの聖書の言葉を思い起こしてください。神は困難と共に、「それに耐えられるように、逃れる道をも備えていてくださるのです。」困難はあなたを成長させるためにあると考えるだけで壁は少し低くなります。その上、思いもよらぬ時に思いもよらぬ助け手が現れることがあります。それもみなさんの成長のためです。皆さんがこの4年間でさまざまな人々やできごととの出会いの中で十分に成長され、幸せな人生を送られますことを心からお祈りいたします。(山田 耕太)