学長室だより

旅人としての人生

夏の夜空はオリオン座をはじめ大きな星座の天体ショーが見事です。天頂を見上げると大きな十字形の白鳥座が見えます。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の銀河鉄道の旅は、北十字の白鳥座のアルビレオからさそり座近くの南十字星を目指していきます。その中で主人公のジョバンニはさまざまな人の生きざまと出合い、本当の幸せとは何か、と何度も問い直します。

「銀河鉄道の夜」のモデルとなった岩手軽便鉄道

「銀河鉄道の夜」のモデルとなった岩手軽便鉄道


 

松尾芭蕉は新しい俳句の世界を切り開いていくために人生の後半に何度も旅をしました。最後には冥途の土産にと500年前の歌人西行の足跡に憧れて、弟子の曽良と共に『奥の細道』の旅に出かけました。新潟では「荒海や佐渡によこたふ天河」という壮大な句を詠みました。そして、最期には「旅に病んで夢は枯野を駆け巡る」という辞世の句を残しました。

ユダヤ教・イスラーム教・キリスト教で信仰の父と呼ばれるアブラハムは、シュメール文明の都であったウルから妻のサラと甥のロトと多くの家畜を伴って行く先を知らずに旅に出ます。やがて神が顕現し、子孫は空の星の数のように多くなり、パレスティナの土地を得るという約束を神から受けます。しかし、その約束が成就するまでにさまざまな失敗経験を経て、最後に信仰の人として立ち上がります。しかし、アブラハムが生きている間に得た土地は妻のサラを葬った小さな墓地とたった一人の息子イサクだけでした。神の約束が成就するのは、それから400年以上たったモーセの時代まで待たなければなりませんでした。

人生は旅です。行く先を知らない旅です。そこでの出合い、とりわけ若い学生時代の出合いが将来のあなたを作っていきます。学生時代にはできるだけ旅に出て、日常世界では出合わない大自然や歴史や文化に触れてみることをお勧めします。若い時代はあっという間に過ぎ去っていきます。(山田 耕太)