木を育てるように(2代目学長 新井明)

2007年2月2日号[2007-02-02]

敗戦後、間もない高校時代のこと。校舎の一部が普請にかかっていた。お昼時のことである。突如、職人のひとりが、激昂のていで生徒のひとりにつかみかかった。なにか冷やかしごとでも言ったのであろう。職人の荒げた敏捷さが、付近にいた生徒たちを棒立ちにさせた。そのとき数学のT先生が飛び出してきて、職人を抱きかかえた。虚弱体質のT先生の、どこにそんな力があったのか。そして大声で、「生徒がなにか悪いことをしたのでしょう。謝ります。ただ、生徒のことはわたしたち学校側の責任ですから、こちらへ申し出てください。」すべてはとっさの出来事であった。
わたしはT先生の個人的な思想は存じ上げない。しかし、その後、先生のことを思い出すたびに、「友のために自分の命をすてること、これ以上に大きな愛はない」ということばを思い出す(ヨハネ15の13)。身を挺して暴力を抑えた先生の行為は生徒のみならず、あの職人をも救ったのだ。もし、職人が生徒に打ってかかり、怪我でもさせたならば、彼はその後どうなったことであろう。先生は彼の「友」ともなったのだ。(新井 明)

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