学長室だより

2006年6月23日号

この5月28日にローマ教皇・ベネディクト16世は、かつてのヒットラー政権時代の、アウシュヴィッツ強制捕虜収容所の跡を訪問した。ドイツ占領下のポーランドにあったこの施設で、ユダヤ人大量虐殺が行なわれた。その数150万人。少なくとも135万人を毒ガスで殺した所である。ドイツ人である教皇は、かつての自国民の罪を忘れることが出来ず、その地でドイツの罪を神の前に謝した。
そこで思い出すのは、1985年の5月、ドイツの敗戦40周年の日に、当時の大統領ヴァイツゼッカーが「荒れ野の40年」という演説を行なったことである。かれは自分の国の歩んだ過去を批判して、過去を忘れてはならない。過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目となる、と語った。その年の8月15日、日本の中曽根首相はヴァイツゼッカー演説を知っているのに、「もはや戦後ではない」と言い切って、靖国神社の参拝を強行した。わたしは日本人として恥ずかしかった。
過去の罪は、「歴史の主」に許してもらう、清めてもらわなくてはならない。(新井 明)