学長室だより

2006年6月16日号

6月3日(土)、4日(日)は敬和学園大学オープン・カレッジがあり、斎藤惇(あつ)夫先生の「『たのしい川べ』再読」のお話であった。この作品はケネス・グレーアム(1859-1932)が1908年に出したもの。モグラ、ネズミ、アナグマ、ヒキガエルなどの動物が穢れなき川べの四季を生きる。万物にいのちがあり、川でさえ「もりもり太る」。ヒキガエルは嘘つきで、威張りんぼ。しかしモグラたち、川べの友人たちの愛情にふれて、ヒトが変わる。豪勢な邸宅に帰着するときは、あのオデッセイアを思わせる人格を身につけ、いっぱしの詩人にさえなっている。
斎藤先生ご自身にも、かつての長岡の川のほとりの幼年時代の思い出があって、そして今がある。それがグレーアムの物語と不即不離をなす。しかも、その思い出はほぼ詩の世界であり、そこが阿賀北の聴衆のこころをつかむ。ひとは美しい虚構の世界に遊んで、こころが「再創造」 re-createされる。ひとは、ときに「柳をわたる風」の息吹にあたることだ。(新井 明)