学長室だより

受難週に聴いた音楽

今年のイースター(復活祭)は4月12日(日)であった。その暦にあわせると、イエスが十字架に架けられたのが、10日金曜日の午前9時頃で、「エリ、エリ、ラマ、サバクタニ」(わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか)と叫んで絶命したのが午後3時頃。その数時間後に安息日が始まるので(日没から始まる)、イエスを十字架から降ろし仮の埋葬をした消息がマタイによる福音書27章に語られている。申命記の規定(21章22節-23節)によって、木に架けられた者はその日のうちに埋葬されなければならなかったからである。
10日の夕方から夜に、ひとりでマタイ受難曲を聴いた。以前からしばしば聴いてきた曲であるが、受難日にあわせこれを聴いたのは初めてであった。リヒテルが訪日し、上野で演奏されたマタイ受難曲を生で聴いて感動したかつての記憶が甦るが、年齢を重ねるたびに印象が少しずつ変わってきているのもまた事実である。人生経験と共に聴く耳も変化してきたからであろう。
ペテロが主を拒み、イエスを知らないと3度否定した後で、予告されていた通り鶏が鳴く場面がある。ヴァイオリンが彼の涙の心を切なく奏でているが、それを聴いているうちに、涙が溢れ出し、とめようもなかった。学生時代や新潟に赴任した頃に幾度かレコードやCDで聴いたが、このようなことはなかった。この涙は何なのか、自問自答を強いられている。(鈴木 佳秀)