学長室だより

新たな使命

畏友秦剛平もわたくしも別々にアメリカ合衆国に留学することになったのですが、それも不思議な廻り合わせでした。関根正雄先生をお宅にお訪ねし留学が決まったことを報告しました。先生は手放しで喜んでくださいました。連帯責任で叱られた女子学生もドイツ留学が決まったので、今年の夏に一緒に合宿をしようとのお誘いがありました。先生は、信州の蓼科に別荘をお持ちで、夏の間はそこで集中的に本の執筆をなさるのです。申命記注解書を準備されていることも知っていました。
渡米する前から、一年目の課題テスト十科目の突破を目指し準備を始めていました。クレアモント大学院では、博士課程の一年目に課せられた十科目の試験合格が義務付けられていたからです。宗教學のディパートメントですから、宗教學関連の試験を一年以内に合格しないと二年目に進学できないのです。一年に三度しか試験がありません。既に学位を取られた先生から冊子をいただきました。試験に出題される参考文献資料の一覧表でした。教科毎に分けられたリストで50頁ほどあり、文献をほぼ読破しないとその試験は突破できないとのことでした。受験勉強が始まったのです。受けて立とうではないかとの心意気でした。哲学、倫理学、宗教學、教会史、ドイツ語、フランス語、新約聖書学、旧約聖書学、組織神学、神学・宗教思想史の十教科です。
蓼科の別荘で先生と一緒にカレーを作ったのを覚えています。食事のとき、「優しい笑顔」の先生がぽつりと言われたのです。その言葉が、その後のわたくしの歩みを決めたと言えます。「日本人として聖書学を学び研究することの意義を、忘れないでほしい」と言われたのです。(鈴木 佳秀)