学長室だより
野の獣による害
野の獣が人を襲うこともありました。これは殺人ではないのですが、獣からも流された血の償いを求めると神は宣言しています(創世記9章5節)。現在のような砂漠地帯(イラク)でなく、古代メソポタミアは乾燥化が進んでいないステップ式の気候でしたから、野にはライオンや豹、ハイエナ、ガゼルやシマウマ等が生息していました。町囲いの中で飼育されている牛、羊、山羊などを野に連れ出して放牧するのが、羊飼いの仕事でした。何かの理由で家畜が失われてしまった場合、雇われている羊飼いが自分の責任で償ったのです。ライオン等に殺された場合、神の前で潔白の誓いをしなければ免責とならなかったのです(ハンムラピ法典266条)。
旧約聖書アモス書3章12節には「羊飼いが、獅子の口から、後足を二本あるいは耳たぶを取り戻すように、……イスラエルの子らは、寝台の片足、あるいは長椅子のそでと共に取り戻される」(私訳)とあり、ライオンの口から遺骸の一部を取り戻す光景が語られています。獣に殺害された証拠として免責してもらうためですが(出エジプト記22章12節)、預言者アモスは家畜を飼い、いちじく桑を栽培する農夫であったので(7章14節~15節)、このような比喩で北イスラエルの滅亡を預言したのです。(鈴木 佳秀)