学長室だより

ルツとナオミ・その26

親戚の男が「それではわたしの嗣業を損なうことになります」(ルツ記4章6節)と答えていますが、どういう意味でしょうか。嗣業とは、イスラエルの神から託された、先祖伝来の土地を維持管理する事業を意味します。土地の管理であれば責任を持てるが、ルツの夫になることはできないと発言しているのです。嗣業と名を残すことは密接に関係しています。その人は、二人妻婚の制度を念頭に辞退を申し出たのです。恐らく既に二人の妻があり、離縁できるような状況にないことが暗示されています。子供を身ごもった妻を離縁できないのが、古代メソポタミア以来の慣習でした。
古代イスラエルでは、最初の妻の他に、経済的に余裕のある人に限り、債務奴隷や寡婦を第二妻として娶り、その女性を正式な妻として処遇する慣習がありました。債務奴隷の女性や寡婦、孤児の女性は、社会の中で没落し、乞食になるか遊女になるか、奴隷として身を売るか餓死するかの瀬戸際まで追い込まれることがあったからです。外国人に売られた奴隷は、異国に転売される危険がありました。
ナオミの嫁であるルツには、エリメレクの一族として嗣業に与る資格があるので、レヴィラート婚が必要なのです。(鈴木 佳秀)