学長室だより

突然消えた友人とテレビ画面での再会

クレアモント大学院で親しくなった友人に、イランからの留学生がいました。亡くなられたピーター・ドラッカー博士の下で学位論文を書いている人物でした。少しゆとりができたときなので、友人たちと野球をするようになっていたのです。そのグループに、野球を覚えたいと加わったのがその留学生で、ニックネームで、わたしたちは彼をジェネラルと呼んでいました。将軍のような顎髭を蓄えていたからです。グランドでは、宗教的な違いなど全く関係なく友情を育むことができたのです。そうしたときに、テヘランのアメリカ大使館占領事件が起きました。学内に騒然とした雰囲気が生まれ、誰しもテレビにかじりついて、事態の経過にはらはらしていたのを覚えています。
キャンパスからジェネラルが消えたのです。野球仲間では彼を心配し、どこで、どうしているのかとうわさしました。イラン人の彼に批判がましい感情はありませんでした。アメリカに居づらくなるかもしれないと、むしろ同情的でした。二、三ヶ月後、アメリカのNBCテレビの画面上でジェネラルと再会することになるとは、思っても見ませんでした。全米イラン学生協議会の議長として、インタビューを受けていたのです。アメリカとの関係を憂慮している旨の発言をしていました。その時の驚きと、大使館占領事件とが重なって記憶に残っています。
二年後、キャンパスで彼と再会したときには、元のジェネラルに戻っていました。笑顔で握手を交わし無事を確認し合ったのを覚えています。彼が学位を取得したのかは分かりません。ほどなく帰国したと聞いています。今どのような地位にいるのかは不明です。その実名も知らないからです。(鈴木 佳秀)