学長室だより

池上彰氏に名誉文化博士号を授与する言葉

池上彰氏に名誉文化博士号を贈りました

 

池上彰氏は1950年に長野県松本市でお生まれになり、東京都練馬区で育ち、東京都立大泉高校で学ばれました。1973年に慶応義塾大学経済学部をご卒業され、ジャーナリスト志望の夢が叶って、NHKに記者として就職されました。松江・呉での勤務を経て、東京報道局社会部で活躍され、その後NHKテレビ番組のキャスターを経て、1994年から2005年まで「週刊こどもニュース」の「お父さん」役兼総編集長を務めて、分かりやすいニュースの解説が評判になりました。

2005年にはNHKを辞めてフリージャーナリストになり、本や新聞や雑誌やテレビでご活躍されました。2008年ころからテレビの仕事が増えて多忙を極め、2011年にはテレビ出演や講演を一切断る時期がありました。しかし、すべての講演を断っている中で、2011年10月の本学学園祭での同窓会主催講演会には、同じ高校の同期生のよしみで来てくださいました。その翌年から、東京工業大学のリベラルアーツ研究院教授の他、いくつかの大学の特任教授等にも就いて、テレビにも復帰して、現在のご活躍につながっておられます。
 
1998年から2021年の現時点までに執筆されたご著書は、私が数えただけでも、単著書だけで200冊を超えています。共著書や編著書を併せると300冊を超えています。それらは、記者時代に獲得した知見と感覚に基づいて、数多くの本を読みこなし、毎日新聞を切り抜き、現場を訪れて取材するジャーナリスト精神に裏打ちされ、また難しいことを分かりやすく説明することに貫かれています。

そのジャンルは大学時代に専攻したマルクス経済学を出発点にして、政治・経済・国際関係・現代史・科学文化という氷山に例えると、海面に浮かんでいる部分の文明の表層から、教育・思想・宗教という氷山に例えると海面の下に沈んでいる文明の基盤にまで及ぶ、現代の文明論に関する著作が一方にあります。また他方には、情報収集力、質問力、書く力、考える力などの情報収集・表現・伝達に関するものがあります。

これらすべてに通じて底にあるのは、「私たちは今どこにいるのか」「今をいかに生きるのか」という人間存在の「アイデンティティ」(「私は何者か」という自己同一性)に関する問いです。それに対して、複雑で錯綜するできごとを子供や学生を含めて、現代市民に分かりやすく説明する姿勢が貫かれていることです。これはリベラルアーツ教育を圧倒的な力で推し進めている類稀な例と言えます。

さらに、このような夥しいほどの著作に基づいた知見を、連日のように放送されるテレビ番組を通して、子供から大人まで、ニュースの背景にあるできごとや複雑な社会の仕組を分かりやすく解説して、「いつでも、どこでも、だれでもが学ぶ」生涯教育を国民的な規模で、前人未到な力で推し進めてこられました。

以上のように、まれにみる多面的な視野と圧倒的な推進力で、リベラルアーツ教育ならびに生涯教育にまい進してこられた池上彰氏の長年のご労とご貢献に対して、心から敬意を表し、リベラルアーツ教育を推進する敬和学園大学から名誉文化博士号をお贈りします。今後も益々ご活躍されますことを心からお祈り申し上げます。

2021年4月17日
敬和学園大学長 山田耕太