学長室だより

2002年10月18日号

先週に引き続き、またも古い言葉を持ち出して恐縮ですが、「三尺下がって、師の影を踏まず」という諺があります。儒教文化圏では先生というものは、父母ならびに主君と同じレベルで尊敬すべきものとされていました。先生の発せられる言葉には絶対的な権威があるとされたのです。あの内村鑑三でさえ、アーモスト大学に留学中、シーリー学長に対して、そのような尊敬の念を抱いていたことが彼の著作から伝わってきます。ところでこんど、二人の日本人科学者がノーベル賞を受けることになりました。そして、その人たちの辿ってきた跡を見れば見るほど、師の教えたこと、本に書いてあること、常識とされてきたことを疑ってかかったことに、大発見への端緒があったことがわかります。師の影にこだわっていては新発見はできなかった筈です。師の影の呪縛から逃れることは学問の発展のためには非常に重要なことですが、逃れきれなかった人がいかに多いかということに、ぼくは別の感銘を受けています。(北垣 宗治)