学長室だより

食べてはいけないもの・その4

肉食の世俗化に続いて、食物規定(申命記14章3節~21節前半)を取り上げてきましたが、「あなたは子山羊をその母親の乳で煮て〔食べて〕はならない」(14章21節後半・私訳)という禁令がすぐ後に続きます。この禁令の儀礼的理由は何だと思いますか。どう説明できるでしょうか。いわゆる親子丼を禁じているようですが、鶏肉と卵の関係よりももっと重大な意味が隠されているようです。
旧約聖書のタブーや禁令の多くは、周辺諸国民の文化伝統を意識しながら、イスラエルの神ヤハウェに仕える民に、儀礼的な純潔さを求めるところに真意があるのです。子山羊を調理して食べることは、肉食の世俗化の流れから、私的な家庭空間で起こりえました。聖所では祭司が犠牲の調理を司っていましたから、儀礼的な過ちは起こりえなかったと言えます。しかし今や町の門の内で屠殺が出来るようになったので、このような規定が必要とされたのです。
子山羊をその母親の乳で煮ることが異教の儀礼(ウガリト)にあったため、厳格に禁じたのです。こうした食習慣が 日常生活を穢(けが)してしまうと、穢(けが)れているその人が神殿に詣でるなら、聖所を穢(けが)してしまうという事態を恐れたのです。(鈴木 佳秀)