学長室だより
イスラエルと神との契約締結
古代メソポタミアでの商取引や売買は、契約を媒介としていた。取引には複数の証人が必要であった。主権国が他の国家群を服属させる宗主権条約(契約)では、相手に守らせる規定が言明され各国の神々が証人として召喚された。離反する国に対する呪いも宣告された。
これを神との契約に転換させたのが古代イスラエルである。契約の仲保者はモーセで(申命記26章16節~19節・私訳)、契約締結の条件を「今日あなたの神ヤハウェは、これらの掟と定めを行なうようにあなたに命じた。あなたはあなたの心を尽くし、精神を尽くして、それらを守り行ないなさい」と提示。続いて「今日あなたはヤハウェに願って、あなたの神となるとの言明を得た。あなたがその言葉に従って歩み、その掟と戒め、定めを守り行ない、その声に聞き従うためである。今日ヤハウェはあなたを促し、あなたに約束した通り、あなたはヤハウェの宝の民となるとの言明を得た。……あなたをあなたの神ヤハウェの聖なる民とするためである」と語り、モーセが契約を締め括っている。
神と民の間に立つモーセが双方の意思を確認し、意義を語る。この神との契約が、旧約聖書思想の基盤となっているのである。(鈴木 佳秀)