学長室だより

恩師から与えられた薫陶その2

高校までは決まった教科書があり、指導要領に従って教師が解説的にポイントを説明し、授業をするのが共通している光景でしょう。わたくしが経験した大学院のゼミは、そうではなかったのです。大きな教室でなく大学にある先生の研究室で行なわれるゼミでした。古びた研究室の中央に大きな研究机があり、その前に椅子が並べてあって、3名がそこに座ってのゼミでした。窓とその上下部分を除く研究室の壁はすべて書棚でした。その書棚には欧米の研究書が天井までぎっちりと並べられていたので、独特の雰囲気がありました。椅子に座って先生を待つのですが、入ってこられた先生が机の椅子に座られると、1.5メートルほど先に先生のお顔があるのです。
先生のお宅を訪問したとき、受講生には、担当する研究書が既に個別にあてがわれていたのです。わたくしには300頁近いドイツ語の研究書が指定されていました。週1回のゼミでは、決められたヘブライ語のテキストを読み、研究書からその個所についての最先端の解説をまとめ、報告することが義務付けられていました。テキストの翻訳と研究書のレジメ作成で、一週間のサイクルを決めるという生活が始まったのです。
最初のゼミで、過去の欧米の研究を引用しながら、申命記のテキストに独自の解釈を加え、関根正雄先生がご自身の学説を展開するというゼミでした。学会発表と同じでした。そして「諸君は、わたくしの解釈に対し対論を出しなさい」と言われたのです。(鈴木 佳秀)