学長室だより

恩師から与えられた薫陶その3

関根正雄先生は大学院生を上から目線で指導するのでなく、一人の研究者として扱い、対論を出しなさいと言われたのです。それまでの教育現場の環境とは全く違っていたので、深く感動しました。研究に取り組むことにおいては同等だというお考えなのですが、厳しい指導が待っていたのです。同期の女子学生がゼミの終わりに、ふと先生に質問をしました。ヘブライ語聖書の脚注欄にラテン語の表記があり、古代語訳聖書での写本上の異同について記してあるのですが、省略形で書いてあるラテン語を指して、これは何を意味しているのですかという質問でした。彼女は気軽に尋ねたのでしょう。
翌週のゼミのとき、先生が真赤な顔をして研究室に入ってこられたのです。椅子に座られても15分以上黙ったままなので、部屋に緊張がみなぎりました。そして突然、大きな声でゼミ生全員をしかりつけ始めたのです。先生の真赤な顔がすぐ目の前にあるものですから、顔が上げられません。皆うつむいたままでしたが、その桁外れに大きな声に、体が宙に浮き上がる感じを味わったのです。
ヘブライ語聖書については概説書があり、写本の異同やラテン語の表記については知っていることが前提でした。そうでなければヘブライ語聖書を学問的に読むことはできません。自分で調べる手間を省いて、教師を単語帳がわりに利用したことで、先生の怒りが爆発したのです。その精神がなっていない、研究者になる資格はないに等しいという憤りでした。連帯責任を負わされたのです。(鈴木 佳秀)