学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その77

王としてエルサレムに帰還する際に、ダビデ一行はヨルダン川を東から西に渡らなければなりませんでした。王を迎えるため、渡し場で、ユダの人々とイスラエルの人々との間で、忠誠心を見せる醜い争いが生じたのです。王の好意を得て国内の利権を失わないようにと気を遣ったイスラエルの人々は、建前であっても、王の目の前で忠誠を行動で示す必要があったのです。しかし、手柄を横取りされないようユダの人々が王の周囲を守り固めていました。
その現場を見ていた男がいたのです。「そこにベニヤミン人ビクリの息子でシェバという名のならず者が居合わせた。彼は角笛を吹き鳴らして言った。『我々にはダビデと分け合うものはない。エッサイの子と共にする嗣業はない。イスラエルよ、自分の天幕に帰れ。』」(サムエル記下20章1節〜2節)これは分離独立を狙った角笛でした。ダビデ王の周囲がユダの人々によって固められているのを見たシェバは、イスラエルの人々の期待がかなわないのを見て、彼らの心を本音の方に引き戻すよう促したのです。自分が王となるために。
面従腹背という言葉があるように、建前と本音を使い分けるのは古代イスラエルも日本も変わりません。ダビデに仕えても利益がないことを知ったため、心が揺れていたイスラエルの人々は、鳴り響く角笛によって目が覚め、シェバの呼び声に従ったと言えます。敵対関係の傷は癒されない現実を知ったことが、彼らを決断へと踏み切らせたのです。(鈴木 佳秀)