学長室だより

2021年度卒業式式辞(山田耕太学長)

式辞を述べる山田学長

式辞を述べる山田学長

 

卒業生の皆さん、保護者の皆さん、敬和学園大学ご卒業おめでとうございます。今年は3月末になってもまだ肌寒い日が続いています。小鳥がさえずり始めていますので、間もなく梅や桃や桜の花が咲き出すことでしょう。

卒業生の皆さんは、4年前に入学した時の自分と大学を卒業する現在の自分とを比べてみて、さまざまなできごとを振り返りながら、ご自分が成長したことを実感しているのではないでしょうか。4年前に比べてさまざまな学びを通して、あるいはクラブ活動・サークル活動、アクティブラーニング・ボランティア活動・インターンシップなどのさまざま活動を通して、より自分らしい考え方を身につけて、ご自分の精神的な成長を実感しているのではないでしょうか。

この4年間の中にはさまざまなことがありましたが、2つのことに簡単に触れたいと思います。はじめに、4年間の後半の2年間は新型コロナウイルス感染症の世界的なまん延という100年に一度あるかないかというできごとの中での生活でした。鳥やコウモリや豚がウイルス感染症にかかって大量死するのと同じように、人間も生物の一種で感染症にかかるのですが、100年前のスペイン風邪の時よりも人間の知恵は進歩して、ワクチンや薬を短い時間で開発して、それらを用いて未然に防ぐ方法を手に入れました。新型コロナウイルス感染症はまだ収束しておらず、その第6波が次第に収束に向かっているさなかです。この2年間にさまざまな交流の場が中止になり延期になり、人と人とが会う機会がめっきり減りました。しかし、そのような中で人と人とが顔と顔を合わせてコミュニケーションすることの大切さに改めて気づかされたと思います。今後も人と人との間のぬくもりのある対話を心掛けていってください。同時に、デジタル革命により遠隔にいる人と時間と距離という壁を越えて手軽にコミュニケーションすることができる方法を新たに手に入れることができました。時と場合により両方のコミュニケーション手段を使い分けていくことが求められるでしょう。

次に、皆さんはノーベル平和賞を最初に受けたアンリ・デュナンのことを知っているでしょうか。31歳のデュナンはビジネスでイタリアのソルフェリーノを訪れた時に、たまたま戦争に遭遇して、無残に亡くなった兵士や負傷して倒れている兵士を見て「こんなことがあってよいのだろうか」と強く思いました。その経験を「ソルフェリーノの思い出」という本にして出版し、友人に国際的に影響力がある人を加えてたった5人で赤十字国際委員会を組織しました。その働き掛けはやがて、戦時に負傷者や病人を敵味方関係なく助けるジュネーブ第1・第2条約、捕虜の人権を守るジュネーブ第3条約、戦争とは関係ない民間人を守るジュネーブ第4条約に実を結びました。プーチンがウクライナに侵略した戦争は、国際人権条約に違反する戦争犯罪です。戦争犯罪は必ず裁かれます。戦争は最大の人権侵害であることを覚えておいてください。これからの皆さんの人生において、小さなことでもよいですから「世の中にこんなことがあっていいのだろうか」と思うことがあったら、より生きやすい社会にしていくために声を上げていきましょう。そしてできれば数人の同士を集めて社会をよりよくしていくように働き掛けていきましょう。

これから社会に出ていく皆さんの旅立ちのはなむけに次の聖書の言葉を送ります。「平和を実現する人々は幸いである。その人たちは神の子と呼ばれる。」(マタイ5:9)「平和」の反対は何でしょうか。平和学の父のヨーハン・ガルトゥングによれば、「平和」の反対は「暴力」すなわち経済的搾取・貧困・格差などの「目に見えない構造的な暴力」を指しています。一言で言うと一人ひとりの人権が守られている状態を「積極的な平和」と呼びます。それに対して「戦争のない状態」を「消極的な平和」と呼びます。日本国憲法では第11条で積極的平和の基本的人権を保障し、第9条で消極的平和の戦争放棄を宣言しています。すなわち、「平和を実現する人」「平和を創る人」とは「人権を守る人であり、戦争をしない人」です。人権と平和は表裏一体となっているのです。戦争が起こるのは、世界の中に目に見えない構造的な暴力があるからなのです。私たちはどのような職業についても、目に見えない構造的な暴力がない社会、すなわち人権が守られている社会を創っていくように心掛けていきましょう。

大学教育は学校教育の終わりですが、生涯教育の始まりです。一生学び続けていくことを覚悟して、より自分らしくなっていく学びを続けてください。結びに「インマヌエル(神は我々と共におられる)」(マタイ1:23)という言葉を贈ります。人生晴れの日ばかりでなく、雨の日も嵐の日もあります。そんな時にも、神は私たちが意識しようがしましいが、私たちに命がある限り、私たちの存在を根底から支えていて寄り添っていてくださることを忘れないでください。それでは皆さんの生涯が幸せ多い生涯となりますように心からお祈りします。

2022年3月24日
敬和学園大学長 山田耕太