学長室だより

「タラントンのたとえ」(2022. 5. 13 C.A.H.)

チャペルで話す山田学長

 

皆さん、おはようございます。木々の緑の鮮やかで、夕日が水田に美しく映えるころとなりました。新入生の皆さんは、ゴールデンウィークが終わって、少し緊張が解けてきたころではないでしょうか。皆さんが日常生活で使っている生活様式や言葉や表現の中には、聖書の言葉には由来するものがいろいろとあります。皆さんは「カリスマ」という言葉を知っていますか。「カリスマ美容師」「カリスマシェフ」などと使いますが「カリスマ」とは「まれに見る優れた能力」のことを言います。これは新約聖書の「カリスマ」すなわち「神さまから与えられたたまもの・能力」という意味のギリシア語から来ている言葉です。もっと身近な言葉で、テレビや芸能界で活躍している「才能のある人」を「タレント」と言います。これも新約聖書に由来する言葉です。実は今日の聖書の箇所「タラントンのたとえ」が「タレント」という言葉が由来する箇所です。英語の「タレント」はギリシア語の「タラントン」という言葉にさかのぼるのです。

イエスは民衆に話す時には、たとえを用いて分かりやすく話しました。時にはアラビアンナイトのような奇想天外な例を挙げます。タラントンのたとえ話はイエスの有名なたとえ話の一つです。「タラントン」という言葉は、日本の「円」やアメリカの「ドル」と同じように、ローマ時代の貨幣の単位です。「1タラントン」とはローマ時代の貨幣単位の「6,000デナリオン」に値します。1デナリオンとは1日働いて得る賃金です。すなわち、1タラントンは土日を除いた約23年分の賃金に値します。現代の貨幣価値に直すと新潟県の今年の最低賃金は1時間859円ですので、1日8時間労働の最低賃金は6,872円になります。1デナリオンを簡単に1万円に換算すると、1タラントンは6,000万円になります。イエスが活躍したパレスティナの北部のガリラヤ地方は、新潟県下越地方ほどの広さでした。そこにはガリラヤ湖という湖があり、その周辺には広い農地がありました。多くの農民は、大地主から農地を借りた貧しい小作農民でした。タラントンのたとえ話には、三人の僕と呼ばれる使用人と一人の大金持ちの主人が登場します。

たとえ話では主人が旅に出る前に三人の僕(使用人)の一人に自分の財産から5タラントン(3億円)貸し与え、もう一人には2タラントン(1億2千万円)貸して、最後の一人には1タラントン(6千万円)貸して、いつ帰るとも告げずに遠くの土地(外国)に旅立っていきました(25:14-15)。そして、何年もしてから音沙汰もなく長期間留守にしていた主人が突然長旅から帰ってきて、貸した金額の清算をし始めたのです(25:19)。その間に、5タラントン預かった使用人は才能を生かして5タラントンもうけ(25:16)、2タラントン預かった使用人も何とか2タラントンを元手にして2タラントン増やしたのです(25:17)。ところが1タラントン預かった使用人は主人が恐ろしい人であったので、土の中に隠しておいたのでした(25:18)。それは主人が種を蒔かない所からも収穫を求め、肥料を散らさない所からも収穫をかき集める厳しい方であると知って、お金を減らさないようにと土の中に隠しておいたのです(25:24-25)。主人は最初の2人に「忠実な良い僕だ。よくやった。お前は少しのものに忠実であったから、多くのものを管理させよう。」(25:21, 23)と褒めました。しかし、最後の人には「怠け者の悪い僕だ。私が蒔かない所から刈り取り、散らさない所からかき集めることを知っていたのか。それなら私のお金を銀行に預けておくべきであった。そうしておけば、利息付きで返してもらえたのに。」と言って非難したのでした(25:26-27)。

このたとえ話は、一体何のたとえなのでしょうか。大前提として、存在(あること)と所有(もつこと)では、存在(あること)の方が第1に重要であり、人間の存在には、一人残らず神さまからそれぞれにふさわしい才能(タレント)が与えられていることを指摘しておかなければなりません。神さまから与えられた才能に気づかない人もいるのですが、多く才能が与えられていると思う人は、その才能に溺れることなく、一生懸命その才能を磨いていかなくてはならないのです。才能がないと思う人は、ないことを嘆いて怠けるのではなく、自分に少しでも与えられている他人とは違う才能に気づいて、一生懸命に磨きをかけていかなければならないのです。皆さんの内には一人残らず「美しい種」のような才能が与えられているのです。才能の多い少ないに関係なく、一人ひとりは等しく尊い存在であり、人とは違う自分にしか与えられていない自分らしさに気づいて、自分らしい「花」を咲かせていきましょう。「みんな違ってみんないい」のです。祈りましょう。(山田 耕太)