学長室だより
はじまりの時に
今年も暑くて長い夏でしたが、皆さんはどんな夏を過ごされたでしょうか。私はどこへも行けなかったので本を読んでいましたが、そのうちの3冊が印象に残りました。ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』は今年文庫になったので、ローマン・クルツナリック『グッド・アンセスター』は人に薦められて、星野道夫『悠久の時を旅する』は写真展で魅力に抗えずに買い求めて読みました。『百年の孤独』は少しずつ変調していく人間の営みの繰り返しを描いており、100年という長さを感じさせませんでしたが、この3冊には「時」それも比較的長期の時間を考えさせるという共通点があります。個人的には、1,000年、2,000年前と変わらぬアラスカのツンドラを1,000キロほど横断する数十頭から数万頭ものカリブーの群れを追う星野さんの文章と写真に心奪われました。即決すること、効率的であることが求められ、ゆっくり長いスパンでものを考えたり、想像したりすることが難しいこの世の中、これからの計画を立てたり何かを選択する場合に、20年、100年先について思いを巡らせること、「よき祖先」(グッド・アンセスター)になれるかという視点を頭の片隅に入れておくことの大切さを思い出させてくれる読書でした。そんなわけで、少し時間をかけて卒業する学生もいた前期卒業式では、リベラルアーツの批判的思考の指標に長期思考を入れることをお勧めしました。学び舎を巣立った卒業生、新学期を迎える在学生、後期入学の新入生のはじまりの時が、何十年か先にどのようにつながっていくでしょうか。「大切なことは、出発することだった。」(星野道夫)(金山 愛子)