学長室だより

2018年度入学式式辞(山田耕太学長)

20180405入学式

入学式で式辞を述べる山田学長

長く雪の多かった冬は終わり、この新発田・聖籠の地にもようやく春が巡ってまいりました。今年の入学式は、今までの27年間になかったことで大学の桜の木も満開です。新入生の皆さん、保護者の皆さん、ご入学おめでとうございます。

新入生の皆さんの多くは、高校を卒業したばかりの18歳の春を迎えていることと思います。平均寿命で考えると男性80才、女性87才、男女を合わせると平均寿命84才の人生の約4分の1のところに立っていることになります。大学生活の4年間は、平均寿命で考えると残りの4分の3の約60年間の人生の土台を築いていくのに、大切な時期であることを第一に自覚していただきたいと思います。

今、吉野源三郎が80年前に書いた本『君たちはどう生きるか』が、文庫本や新書本や漫画本で何百万部も売れて、ミリオンセラーになっています。漫画本を開いて見ると、主人公のコペル君と友人たちとの物語は漫画で描かれていますが、著者が一番言いたいことは、コペル君の叔父さんが「メモ」として書いたノートに書かれています。漫画本でも「メモ」はすべて活字で書いてあり、著者の主張と意図は十分に伝わっています。

皆さんが大学生活の4年間で考えてほしいのは、『君たちはどう生きるか』です。今まで皆さんは、ご両親や学校の先生や友人たちの影響を受けて、自分の価値観を築いてきたのではないでしょうか。親や先生や友人の影響をここで一度脱ぎ捨てて、自分に最も合った自分らしい生き方は何かを考えてほしいのです。それは、ちょうどレディ・メイドの既成服を脱いで、自分にピッタリと合うオーダー・メイドの服を着るようなものです。

いろいろな授業に出て、自分とは違った考えに耳を傾け、さまざまな本を読んで、数多くのレポートを書いて、自分自身の考え方をはっきりさせて、自分はどう生きるのか、自分らしい生き方を考えていただきたいのです。そして、自分らしい生き方に合う職業は何かを考えていただきたいのです。

吉野源三郎の思想に最も影響を与えた思想の源は、新約聖書でした。先ほど読んでいただいた「最も重要な掟」(マルコ12:28-34)の中から、イエス自身の『君たちはどう生きるか』を考えてみたいと思います。

ユダヤ教の古代からの法律の専門家の一人がイエスに「あらゆる掟の中でどれが一番でしょうか。」(28節)と問います。ユダヤ教の「律法」(モーセ五書)には、 613の戒めがあります。その中で最も重要なのは「十戒」という「10の言葉」(出エジプト記20:3、4、7、8、12-17)です。しかし、イエスは「十戒」とは答えないで、十戒の前半と後半を愛の精神で解釈します。

すなわち、十戒の前半の神と人間の関係、ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教に共通な一神教の教えである「神のみを神とする」「神の像を創らない」「神の名を(自己正当化のために)唱えない」を愛の精神で解釈して「心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くし、力を尽くして、あなたの神を愛しなさい」(30節、申命記6章4節)と神への愛でまとめます。

さらに、十戒の後半の人間と人間の関係、ユダヤ・キリスト・イスラーム教に限らず、仏教・儒教・神道などにも共通なユニバーサル倫理である「父母を敬え」「殺してはならない」「姦淫してはならない」「盗んではならない」「偽証してはならない」「隣人の家をほしがってはならない」を愛の精神で解釈して「隣人を自分のように愛しなさい」(31節、レビ記19章18節)と要約します。ここにキリスト教とユダヤ教の分水嶺があります。

イエスの『君たちはどう生きるか』は、戒律を守って生きるのではなく、神と隣人への愛に生きることでした。51年前に敬和学園を始めた太田俊雄は、「神を愛する」を日本的な文脈で「神を敬う」と解釈し、「隣人を愛する」を「人と和する」と解釈して、「敬和」と名づけたのです。

大学では、校歌の冒頭で「神を敬い、人に仕える」と歌っているように、「隣人愛」を現代的な奉仕の理念で解釈し「人に仕える」(人にサービスする、人をもてなす精神)と解釈し直しています。奉仕の理念で「人に仕える」人になって、恵みに溢れた生涯を送っていただきたいと思います。人生の春とも言える大学4年間に、キリギリスのようになるのではなく、アリのようになって、しっかりと学び、しっかりと立ち、しっかりと歩んで行きましょう。

2018年4月5日
敬和学園大学長 山田耕太