学長室だより

7年間の一貫教育(高校大学合同研修会)

1. はじめに

敬和学園の教職員の皆さん、敬和学園の教育にご尽力くださり、心から感謝を申し上げます。昨年は学校法人敬和学園ならびに敬和学園高校創立50周年を祝うことができました。四半世紀に及ぶ高大一貫教育の時の重みと、「敬神愛人」すなわち「神を敬い、人に仕える」教育理念の下で培った友情が、生徒・学生・卒業生の間に深く根を下ろしています。私は5月12日の大学ワン・デイ同窓会に出席してそれを実感しました。法人の100年の歩みを展望して、51年目の新たな歩みを始めるにあたり、敬和学園のユニークな「7年間の一貫教育」を目指して、高大に現存するさまざまな教育プログラムをつなげていき、新たな教育の礎を築いていきましょう。

2018.6.23学長ブログ

敬和カレッジ・ブックレットNo.23『ユニークな敬和教育』

 

毎年50人近い高校生をお送りくださり感謝です。今年はおかげさまで大学は176人の新入生を迎えることができました。秋入学予定の9人の留学生を加えると180人の入学定員を超えます。敬和学園高校から本学に進学するのは、高校卒業生の約4分の1です。大学の在籍者の約4分の1が敬和学園高校出身者です。残りの4分の3も極めて大切です。しかし、この両者にとっての4分の1という少数派は、本学園の「心柱」とも言うべき、「7年間の一貫教育」を実施するのに極めて大切です。

2. 教育方針の確認

「7年間の一貫教育」を推し進めていくには、ビジョンを共有することが大切です。ユニークな敬和教育とは何でしょうか。高校の方でも大学の方でも、いくつが具体的な項目をすぐに挙げることができると思います。その目指す目的は何でしょうか。私たちは何を目的として、敬和学園に集まって教育をしているのでしょうか。それは法人・高校・大学の憲法にあたる法人寄付行為では第3条、高校学則では第1条、大学学則でも第1条にそれぞれ教育の「目的」(教育方針)が記されています。それを確認するところから始めたいと思います。

高校の学則第1条は「本校は教育基本法及び学校教育法の精神にのっとり、中学校を卒業した者に高等普通教育を施し、キリスト教による人格教育をもって、心身ともに健全な民主的社会人を育成することを目的とする。」と記されています。ここで、重要なのは「キリスト教による人格教育」と「高等普通教育」の2点です。

法人の寄付行為第3条は、大学の学則第1条に似ているばかりでなく、高校の学則よりも多少詳しく表現されているので、恐らく大学設立時に書き改められたと思われます。高校の学則のキリスト教教育については、「福音主義(プロテスタント)のキリスト教精神に基づいて、敬虔な思いと真理による自由と愛をもち」と「キリスト教人格教育」の内容について述べています。「高等普通教育」についても、「国際的現代社会に対する広い見識を持つ有為な人物を育成し」とかなり国際主義の視点で具体的に言及しています。高校の学則の教育の目的「心身ともに健全な民主的社会人を育成する」は、寄付行為では「人類の福祉と文化の発展に寄与することを目的とする」と高邁な表現になっています。

大学では学則第1条第1項を現代的に表現した「ミッションステートメント」(学則第1条第2項第1 号)をよく用いています。そこでは、「本学は、キリスト教精神に基づく自由かつ敬虔な学風の中で、リベラルアーツ教育を行い、グローバルな視点で考え、対話とコミュニケーションとボランティア精神を重んじ、隣人に仕える国際的教養人を育成します」と記されています。

キリスト教教育について大学では「キリスト教精神に基づく自由かつ敬虔な学風の中で、・・・隣人に仕える人」と表現しています。高校の「高等普通教育」にあたるのは、大学の「リベラルアーツ教育」すなわち、人間らしい人間になる教育です。(リベラルアーツ教育についてはここでは詳しく触れませんが『リベラルアーツとは何か』というブックレット第21号を3年前に高大の教職員の皆さんに配布しました)

そこには法人寄付行為の「国際的現代社会」への教育が「グローバルな視点で考え、・・・国際的教養人を育成します」と表現されています。それに「隣人に仕える」というキリスト教教育から「地域主義教育」への展開が見られます。すなわち、キリスト教教育に基づいて、”Think globally and act locally.”(国際的に考えて、地域社会で活躍する)という国際教育と地域教育を施していくのが敬和のユニークな教育方針です。

3. 将来ビジョンの共有

高校の教育を土台にして、その上に大学の教育を展開していく「7年間の一貫教育」とは、キリスト教教育、国際教育、地域教育の三つに柱を置いた敬和教育です。将来ビジョンについては大学の学則第1条第2号の「ビジョン」で次のように述べられています。それは「ミッションステートメント」の最後の「隣人に仕える」を補足して「隣人に仕えるための地域社会への貢献を通して(少子高齢化と地域間格差の進む時代に)、持続可能な社会の担い手を育成する」と現代日本社会が直面している課題を担う人物の育成を述べています。

現代の日本社会が直面している大きな問題は少子高齢社会・人口減少社会です。その状況の中で、三大都市圏とそれ以外の地方圏でほぼ人口が二分され、首都圏を中心とした三大都市圏に人口が集中し、地方圏が廃れていくという課題に直面しています。それに対して、地方創生を図っていく知(地)拠点として、また地域社会には基幹病院が必要であるように、高等教育機関である大学が、「社会的共通資本」(宇沢弘文)として必要不可欠なのです。新潟市・新発田市を中心にした下越地方の生徒・学生に高等教育を施して、新潟市・新発田市の地域社会を担う人物を育成するという「ビジョン」です。

キリスト教教育を、分かりやすく一言で言うと、神によって創られた「一人ひとりを大切にする教育」(「諸君ハ一人一人大切ナリ」新島襄同志社創立10周年記念講演、1885〔M18〕年)です。そして、「一人ひとりを大切にする教育」とは、老人・若者・幼子という年齢の違い、男女というジェンダーの違い、肌の色や人種の違い、能力や経済力の違い、障害の有無を越えて、とりわけ弱い立場の人々に配慮した「すべての人は等しく尊い」という人権の教育につながってきます。高校の礼拝・聖書・労作・寮教育など、大学のチャペル・アッセンブリ・アワー、キリスト教学とキリスト教関連科目、ボランティア教育、寮教育、サンタ・プロジェクトなどのアクティブラーニングは、人格教育・全人教育と結びついた広い意味でのキリスト教教育の中に含まれます。

国際理解教育は、英語教育に代表される外国語を学ぶことから始まり、異なる国や文化圏の違った生活習慣・思想・文化を理解して、それを寛大に受け入れていきます。異文化社会に暮らす人々と共に生きることを学んでいきながら、その目指すところは草の根のレベルで平和を創り出していく平和の教育です。英語教育などの外国語教育から始まり、国際的視野を広める教科や諸科目、海外研修や海外留学などは、国際理解教育の実例です。

地域貢献教育は、地域社会にあるさまざまな背景が異なる人々の「隔ての壁」を越えて、多様性(ダイバーシティ)に富んだ人々を受け入れて、社会の中に包み込むように受け入れて(ソーシャル・インクルージョン)、互いに助け合い支え合う共生の教育が大切です。多様性に富む生徒・学生の支援教育から始まり、地域社会でのボランティア活動やクラブ・サークル活動、地域社会でのインターンシップやアクティブラーニングなどは、地域貢献教育に含まれます。

すなわち、ユニークな敬和教育とは、人権・平和・共生にアクセントを置いて「角のとがった」教育、「一人ひとりを大切にし、国際的な視野で考え、地域社会に貢献する人物」を育成するリベラルアーツ教育です。その目指すところは、偏見から解放された自由で柔軟な思考する人物の育成です。

高校は50年間で8,456人の卒業生を輩出し、大学は27年間で4,150人の卒業生を社会に送り出してきました。大学の場合は入学生の8割以上は新潟県の出身者で、卒業生の約7割は県内に就職しています。学校法人敬和学園の新しい50年に向かう歩みは、地域社会の生徒・学生を地域社会の担い手に育てていく「地域循環型教育」を自覚して、ユニークな敬和教育を推し進めていきましょう。

4. むすびに

高校と大学の「7年間の一貫教育」は、地域社会にとって基幹病院がなくてはならない存在であるように掛け替えのない存在となり、AI時代を迎える今後の地域社会にとって、人間固有の知の在り方を探求し育成する高等教育機関となることを求めていきましょう。そのためには欠かせないことは、生徒・学生に対する教育愛、真理に対する愛、地域社会に対する愛、敬和学園に対する愛を育みつつ、ユニークな「7年間の一貫教育」の構築に取り組んでいきましょう。この学園が「愛と希望の溢れる学びの共同体」となることを願っています。 

2018年6月23日
敬和学園大学長 山田耕太