学長室だより

「木には希望がある」(2021.4.30 C.A.H.入学記念植樹式説教)

皆さんおはようございます。2週間前に池上彰先生が講演の中で触れていたニュートンのりんごの木にピンク色の花が咲いています。隣の小さな聖籠町のリンゴの木にも白い花が咲いています。リンゴは近くに別の木がないと受粉しないようです。夏に青いリンゴの実がなりますが、調理用のリンゴですので、すっぱすぎてそのままでは食べられません。ニュートンはケンブリッジ大学がペストで1年半休校の時に故郷に帰って、リンゴの木から実が落ちるのを見て万有引力の法則を発見したと言い伝えられています。その木が東京の小石川植物園で育ち、秋田の果樹試験場を経て31年前の本学の開学式の時に植えられました。開学式の時にはか細い苗木でしたが、30年以上たった今では立派な木として成長し、毎年大きなリンゴの実をつけています。

本学では新井元学長の時代の2004年から新入生の入学記念植樹式を始めています。普通ですと卒業記念に植樹するのですが、「木を育てるように人を育てる」をモットーとしていた新井学長は、木の成長と自分の成長を見比べることができるように、入学式の直後のゴールデンウィーク前に植樹式をし始めました。新井学長はユリノキが好きでしたので、毎年ユリノキを植えていくと20本近いユリノキ林となりました。5、6年経つとしっかりとした木になり、10年近く経つと白い花を咲かせます。昨年からは少し離れた場所に河津桜と寒緋桜を植え始め、100本余りのソメイヨシノと八重桜と合わせて、桜のシンフォニーとなるように心がけています。

今年の冬は35年ぶりの大雪で大変でしたが、皆さんは雪が解けていく時に、木の根の周りから解けていくことを見たことがありますか。ブナ林などではその様子がはっきりと見えます。それを「ブナ林の根開き」と言います。ブナの木でなくても本学のキャンパスの木々でも同じことが起こっています。この光景を見ると木々が冬の間でも寒さに耐えて生きていることを肌で感じます。木々が雪の温度よりも温かい地下水を吸い上げているので木の根元の雪が早く解けていくのです。

皆さんは木の年輪をよく見たことがありますか。木の年輪は、夏に育つ部分と冬に育つ部分の成長の差で年輪ができるとよく言われますが、実はそうではなく、春に育つ部分と夏に育つ部分の成長の差で年輪ができるのです。秋冬には成長しないで寒さに耐えているのです。外の皮の内側に中心に近い心材という部分と外側に近い辺材という部分があります。心材はすでに細胞が死んだ部分で木をしっかりと立たせています。辺材が生きている部分で地下水や栄養分を幹の上部や枝に運んでいます。そして木は水分や養分を吸い上げて生きていくのに最も大切な役割を果たしているのが根っこの部分です。木の根はたいてい地表に現れず、土の中で根を張っています。それは広がりばかりでなく深さもあり、地表の枝と同じくらい地中に深く根を張っていることもあります。

旧約聖書のヨブは、一夜にして全財産を失い、息子7人と娘3人を失うという悲劇を経験します。そこでも「私は裸で母の胎を出た。裸でそこに帰ろう」と言います。次に全身が病に侵され「神を呪って死んでしまいなさい」と言う妻に対して「神から幸福をいただいたのだから、不幸もいただこうではないか」と答えます。以下は、不幸の原因は何か罪を犯したと決めつけて神に罪を悔い改めよと迫る友人たちに答えた言葉の一つです。
 
   「木には希望がある。木は切られてもまた新芽を吹き、若枝の絶えることはない。
    地におろしたその根が老い幹が朽ちて塵に返ろうとも水気にあえば、また芽を吹き苗木にように枝を張る。」
   (ヨブ記14:7-9)

「木の根さえ生きていれば、また木は青々とする」とヨブの信仰を裏付けることを一つ証したいと思います。私の所属している新発田教会にはあやめこども園があります。こども園には見事な花を咲かせる藤棚がありました。ところが園舎を建て替える工事のために藤の木を移さなければなりませんでした。その後に立派な園舎はできあがったのですが、そのために移した藤は根と1~2mの幹しかない無残な姿となりました。工事が終わって2年近くは死んだように枝も生えませんでした。私はもうだめかと思っていました。しかし、その後に次第に枝が伸び、花が咲き、今ではまだ以前ほどではありませんが藤棚が復活したのです。工事中も新発田建設の方が毎日藤の根にたっぷり水を遣っていたのが奇跡的な復活につながったのです。根は水分を得て生きていたのです。

明治のキリスト教学校が敬和学園として復活したのも、根が生きていたからです。皆さんも、大学でしっかりと根を張る学びをしてください「信仰と希望と愛、この三つはいつまでも残る。その中で最も大いなるものは愛である」という言葉があるように、信仰や信念をもって困難を乗り切っていく覚悟をしてください。絶えず希望を失わないで、大自然の営みから学ぶ姿勢を身に付けてください。皆さんの生涯が祝されますように祈ります。(山田 耕太)