学長室だより
2003年4月18日号
以前勤めていた女子大学でのことです。その学校では、新入生には入学式の直後に、「誓いのことば」なるものを書かせとおりました。「努力向上」「不屈不撓」「大志をいだけ」「汝自身を知れ」などということばが書き連ねられました。学生部長は千数百枚のカードを読むことになります。ことばとしては立派ですが、そのことばとそれを書いた学生の顔が結びつきませんでした。
ある年のこと、「花には水を、人には愛を」ということばに出会いました。それは台湾からの留学生の書き残したものであることがわかりました。千数百の「誓いのことば」のなかで、このことばだけが、その筆者の名と結びつく「ことば」として、わたくしの脳裏に刻みこまれました。「外国人留学生を囲む会」が催された折に、このことばを紹介して、このことばは国境を越える、と語りました。
そして、その会のあと、わたくしはこのことばの筆者をよんで、これはどこで学んだことばですか、と尋ねました。母から教わりました、という答えが返ってきました。そのあとで、その若き婦人は静かに言いました――「母は日本人です」。
この4月4日に敬和学園大学で「留学生懇談会」が開かれました。その席でわたくしは、このことばをご披露いたしました。(新井 明)