学長室だより

2003年9月12日号

敬和学園大学の1年生はボランティア活動に一日を費やす。ある老人施設でのこと、指導教授の若い先生が、学生を一列に並べて、ご自分はその中央に立ち、ご老人たちを前にして讃美歌の合唱を行なった。ご老人たちも、歌詞のプリントを見ながら、低い声を出して斉唱した。その後、「故郷(ふるさと)」を合唱した。「兎(うさぎ)追いしかの山 / 小鮒(こぶな)釣りしかの川・・・」というあの懐かしい歌だ。ご老人がたも声を出しておられた。いろいろな思いが脳裏を去来したことであろう。孫のごとき敬和の1年生とともに過ごすこのひと時は、おそらく忘れがたいものとなろう。
それで思い出したことがあった。半世紀ほどまえのこと、戦後アメリカヘ勉強にやらされていたときのこと、あるカレッジで韓国からの留学生たちと親しくなった。あの朝鮮戦争の前線で戦った経験の持ち主たちであった。ひとりが日本の歌をうたってくれというので、わたしは「故郷」をうたった。すると、驚いたことに、その青年の顔に涙が流れた。
そのとき、わたしは同じ人間を感じた。国境を越え、ことばを越え、習慣を越え、そしてその先には、「人間」があると実感した。(新井 明)