学長室だより
2002年12月6日号
夏目漱石は1900年から2年間ロンドンに留学中、チェルシーにあるカーライル博物館を4度も訪問しています。彼の小品「カーライル博物館」を読むと、漱石がカーライルを尊敬していたことがよくわかります。明治期の知的で野心的な日本青年たち、たとえば内村鑑三や新渡戸稲造や夏目金之助が、いかにカーライルを熟読したことでしょうか。新渡戸は『衣装哲学』を34回読んだそうです。20年ほど前、同志社大学英文学科の2年生の演習で、担当者たちが、われわれも読んで見ようということで、それの研究社小英文学叢書版を教科書に使ったことがあります。すると、注釈の日本語が難しくてわからないと、学生たちがこぼしました。或る女子学生は、お祖父さんの書棚に見つけた古臭い翻訳を教室に持ってきましたが、それが明治の日本語で、やっぱりわからない。教師であったぼくは何とかわかったけれど、新渡戸ほどに熱を上げることはとてもできませんでした。明治の文化はとっくに異文化になっている、ということでしょうか?(北垣 宗治)