学長室だより

2025年度卒業式式辞(金山愛子学長)

式辞を述べる金山学長

主があなたを祝福し、あなたを守られるように。
主が御顔を向けてあなたを照らし
あなたに恵みを与えられるように。
主が御顔をあなたにむけて
あなたに平安を賜るように。 (民数記6章24-26節)

寒くて長かった冬が終わり、鳴きかわしながら空を飛び、見る者に幸せを運んでくれていたハクチョウもシベリアへと渡っていきました。春が感じられるこの日、敬和学園大学を卒業される皆さん、ご卒業おめでとうございます。これまで支えてこられたご家族の皆さま、ご関係の皆さまにお祝いを申し上げます。こうして、聖籠町の町民会館をお貸しいただいて、敬和学園大学を地域の宝としていつも支えてくださいます西脇町長さまはじめご来賓の皆さま、ご臨席を賜り、お祝いいただきまして厚く御礼申し上げます。卒業生の皆さんには、一人で学んだのではない、地域実践活動を特長とする本学では聖籠町、新発田市を中心に本当にたくさんの方々に助けられてきたことを覚えていただきたく思います。皆さんもあのハクチョウたちのように、慣れ親しんだ学び舎から旅立つ時がきました。

思えば、皆さんは世界的な動乱と変化の時期を大学生として生きてきたことになります。新型コロナウイルス感染症、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻、2023年10月にはイスラム過激派組織ハマスのイスラエル攻撃とその後のイスラエルによるガザ攻撃。戦後80年の平和を求める祈りもむなしく、今年2月には、アメリカとイスラエルがイランに対して新たな攻撃を始めました。戦争はひとたび始まると終息が見通せず、多くの無辜の人民の命が奪われています。戦争だけではありません。ある研究者が、川端康成の『雪国』を模して、「コロナ禍の長いトンネルを抜けると、生成AIの世界であった」と言いましたが、2022年のOpenAI社による生成AIの発売から、あっという間にAIは私たちの生活の中に入り込み、現実のリアルな世界と仮想空間であるヴァーチャルな世界の境界がこれまでにないほどあいまいになりつつあります。グローバル化だけでなく、日本では少子化も急速に進み、この4年間を振り返ると、私たちは大きな激動の時を生きてきたことを改めて感じます。

卒業にあたって皆さんの学生生活を、一緒に振り返ってみましょう。「神を敬い、人に仕える」という建学の精神の下、敬和学園大学では「キリスト教教育」「地域貢献教育」「国際理解教育」を柱に「実践するリベラルアーツ」教育を行い、「隣人に仕え持続可能な社会を担う良識的な市民を育成し、地域社会と国際社会に貢献する」ことを教育ヴィジョンに掲げています。リベラルアーツ教育は、さまざまな分野の学問を関連づけながら学ぶことで、視野を広げ、思い込みや偏見から解放されて物事をありのままに捉え、自分の頭で考える力を養います。その中で何が真実で何が正しいのか、何が善いことかを判断する認知的、倫理的な卓越性を養おうというものです。また、人文学の学びの中では人間が築き上げてきたものや社会を学ぶ過程で、人間理解を深めることもできたと思います。それは言うまでもなく、自分自身を知ることでもあったでしょう。

本日表彰される白川優花さんは、多くの仲間からの支援を受けながら勉学に励んで優れた結果を残されました。白川さんとの入試面談で、「盲学校では同級生が一人で、自分と違う意見は一人の意見しか聞くことができなかったけれど、30人いるクラスだったら、29人の他の人の意見を聞けることが楽しみです」と話していたことを覚えています。リベラルアーツ教育は本質的に人間教育であり、リベラルアーツ教育の成果は人です。すなわち皆さん自身です。
「実践するリベラルアーツ」教育において、農福連携やこどもの人権意識を育てる「こどものまち」の活動、300回を数えたラジオ番組、国際関係や異文化理解、環境問題への取り組み、IT技術による社会課題の解決など、仲間と共にさまざまなサービスラーニングに皆さんの多くが取り組んできました。4年間の学びの集大成に卒業論文や卒業制作に励んだ人もいます。海外へ短期留学や研修に出かけ、日本では決して得られない貴重な経験をした人もいます。教職課程や社会福祉士養成課程を終え、専門職としての資格を得て仕事に就く人もいます。留学生として日本で学びながら、新入の留学生を助けてくれた人もいます。4年間チャペル・アッセンブリ・アワーに出席した人や、チャペルで奏楽してくれた人もいます。バドミントン部は、日々の厳しい練習の積み重ねとチームワークにより、苦しい試合を制して全国3位という快挙を成し遂げました。ダンスで観客が涙を流すほどの感動を与えたグループもいますし、快くオープンキャンパスを手伝ってくれた人たちもいます。学生寮の「向山寮」ではみんなで問題について話し合う時、必ず全員が意見を言う。それを聞いて寮長は最終的な決定をくだすという重い責任を果たしてきました。その最終決定は、自分の意見と違ったとしてもみんなが尊重し、同じ方向を向くという経験を重ねながら寮運営をしてきました。皆さんの大学生活のどこをとっても、その成長に欠かせないものであったろうと思います。

先日入学前スクーリングがあり、入学予定者を前にして卒業生によるパネルディスカッションがありました。敬和学園大学はリベラルアーツカレッジであるせいか、自由闊達な雰囲気のある大学です。卒業生たちの就職先も実に多様で、今回の参加者は貿易ビジネス経営者、カメラマン、ラジオパーソナリティという面々で、個性豊かで素敵な方々でした。社会人になってからのさまざまな経験を語る彼らの話を聞いていると、教室での学びだけでなく、地域活動やサークル活動、海外留学、趣味、アルバイトも含め、すべてがその人の人間性を磨き、将来につながっていることがよく分かりました。彼らが現在の姿になるには人との貴重な出会いがあったことが共通していました。大学時代のゼミ活動での地域の方との出会いが今の仕事につながったという卒業生は、敬和学園大学では偏差値ではなく「人」として見てもらえたと語りました。「人様の時間をお預かりしているという気持ちで仕事をしている」と言うカメラマンは、重度ダウン症の赤ちゃんとそのお母さんとの出会いが写真の仕事をするきっかけとなったと言います。在学中から海外に行くためにバイトに明け暮れていた別の卒業生は、日本語教師として東南アジアに暮らしていた時に、仕事をして食べていくために日本語を学びにくる真剣な目をした子どもたちとの出会いを話してくれました。今は自分たちが好きな商品を作っている職人さんの商品の輸入販売をしています。

私たちが生きる世界は、コロナ禍でソーシャルディスタンスを取るように言われ、AIの出現で人に相談するよりAIに相談する人が増え、人は人と争い戦争が絶えない世の中です。この中で、どうやって人間らしく生きていくか。中学・高校から進路を考える時に、「何をしたいか」を聞かれ、「どう生きたいか」を聞かれないのは残念なことです。どんな仕事であれ、その人の価値観や生き方が仕事に反映されます。

『星の王子さま』の作者アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリは、1930年代から郵便物をアフリカや南米に空輸する仕事をしていましたが、飛行機が砂漠に不時着する経験を何度かしながらも、飛行機乗りを辞めることはありませんでした。その彼が「重要なのは飛行機の操縦ではない。飛行機は目的ではなく手段だ。命を懸けるのは飛行機のためではない」と言い切ります(『人間の大地』)。むしろ「人間の仕事をし、人間の苦労を知る。風、星、夜、砂、海を相手にする。自然の力と駆け引きする」ことで生きることを愛しているのだと言います。彼はリビア砂漠に飛行機が不時着して、もう一人の仲間と3日間ほとんど食べ物も飲み物もないところで300キロ近くを歩き回り、ついに一人のアラブ人、ベドウィンの民に助けられるという経験をします。ここで眠ってしまえば楽になれると思いながらも、妻や同僚の顔を思い浮かべた彼は、人間が世界との絆を感じるのは、涙や別れや非難をも含めて人間関係の重みであり、人間が求めるのは、人々とつながった一人の人間でありたいという欲求だと語ります。

ご存知のとおり、敬和学園はキリスト教の学校です。多くの神話で英雄が神になる、神格化される物語は多数存在しますが、キリスト教では神が人となられたと言います。それは何を教えているのでしょうか。キリストによる罪の贖いが中心的なテーマですが、人間たちの中に神の似姿がうかがえるというメッセージもあるのではないかと思います。砂漠を3日間もさまよっていたフランス人に、砂漠の真ん中でなみなみと水を汲んだたらいを差しだしてくれた一人の貧しい遊牧民を、サン=テグジュペリは神のようだったと言います。しかも、彼を特定の個人として記憶するのではなく、彼はあらゆる人間の顔で現れると言います。
皆さんには、人種も言語も宗教も超えてどう人とつながっていくのかを考えながら歩んでほしいと思います。人間性豊かな人が今ほど求められる時はありません。4月からの生活に不安はあると思いますが、自分で決めた進路です。勇気を出して歩み出してください。まだ見ぬ人々、まだ知らない世界との出合いが皆さんを待っています。

本日お読みいただいた聖書のみ言葉のとおり、幸せな時も不安な時も悩みの時も、「主があなたを祝福し、あなたを守られるように」(民数記6章24節)祈ります。卒業おめでとうございます。

2026年3月19日
敬和学園大学長 金山愛子

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