学長室だより

2023年度前期卒業式式辞(金山愛子学長)

金山学長からの式辞

金山学長からの式辞

 

  イエスは、御自分を信じたユダヤ人たちに言われた。「わたしの言葉にとどまるならば、あなたたちは本当に私の弟子である。
  あなたたちは真理を知り、真理はあなたたちを自由にする。」
  (ヨハネによる福音書8章31-32節)

  「先生、律法の中で、どの掟が最も重要でしょうか。」イエスは言われた。「『心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして、
  あなたの神である主を愛しなさい。』これが最も重要な第一の掟である。第二も、これと同じように重要である。『隣人を自分
  のように愛しなさい。』」
  (マタイによる福音書22章36-39節)

卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。本日卒業される皆さんにとって大学生活の3年間は、新型コロナウイルス感染症のため、人との関わりや大学生活に伴う活動を制限されるものでした。特に秋期入学の皆さんは、2019年後期に入学後、大学生活に慣れる間もなく、翌年の春からは大学閉鎖の期間を経験されました。留学生の皆さんの中には、何年間も国に帰ることができなかった人もおられたと思います。そんな中での学生生活にはさまざまな悩みや困難があったことと思います。このような困難に耐えて、晴れて卒業式を迎えることができましたことに、まず心よりのお祝いを申し上げます。また、これまで支えてこられたご家族の皆さまの喜びもひとしおと思います。ご卒業を心よりお喜び申し上げます。

大学では卒業時に身につけていることが求められる能力や態度を明確にした学位授与方針というものを定めていますが、敬和学園大学の方針は次のとおりです。
1. 人権と人間の尊厳の原理を尊重する姿勢と真理を希求する姿勢を身につけている。(基礎知識)
2. グローバルな視点をもち、分析的・批判的に考えて判断し、明瞭かつ効果的に表現することができる。(専門知識、論理的思考、批判的思考)
3. 対話とコミュニケーションを重んじ、隣人に仕えることができる。(コミュニケーション能力)
4. 高い倫理的基準を持ち、地域社会に貢献することができる。(社会との関係)

もう卒業するのですから、皆さんはこれらの方針の合格点に達していると判断できます。大学では、特に本学のようなリベラルアーツの大学では、生涯学び続けられる人を育てることを使命としています。卒業してからも、このような態度や能力は皆さんを支えてくれるでしょう。

新型コロナウイルス感染症の世界的流行や、この夏の暑さをもたらした地球温暖化による気候変動、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻とそれに伴うエネルギーや食糧危機、ICTやAIの技術革新によるコミュニケーションのあり方の変化は、望む望まないにかかわらず、私たちがグローバル化、ボーダーレス化した世界に住んでいることを痛感させます。同時に、このような時代であるからこそ、敬和学園大学のリベラルアーツ教育の真価が問われていると思います。ここでは3つの観点から皆さんが受けた教育を振り返りたいと思います。第1に皆さんの専門分野は、歴史学、哲学、教育学、経済学、情報学などさまざまだと思いますが、一つの事象についても複数の立場からの言説や考え方、解釈があり、偽りの情報も入り込んでいることを知ったと思います。その中で何が事実か、何が真実か、何が善かを見極め自分の考えを形作る必要があります。また、選択肢がいくつかある中で、何を選ぶのか、何を基準にして選ぶのかを考えなければならないこともあったでしょう。その過程で、自分は偏見を持っているかもしれない、社会の同調圧力に屈しているかもしれないという可能性をも認識しつつ、異なる意見に耳を傾ける開かれた態度、他者へのリスペクト、事実を確認しながら、答えを探し求めていく姿勢を学んだと思います。

第2に問いを立てるということ。学ぶということは自分が変わることだと言われます。単に事実関係を調べて知識を得るだけではなく、自分で疑問を持つこと、問いを立てることが大学の学びでは重要になります。その答えは一学期間のうちに、あるいは4年間でも出ないかもしれませんが、納得のいくまで突き詰めて考えることが学問のおもしろさでもあります。特にこれだけAIの発達した時代において、考えることまでAIに譲り渡してしまわないという意識を持たなければならないでしょう。

第3に、聖書は、「真理はあなた方を自由にする」と語ります。無知や偏見、思い込みから解放されることで真理に近づくことができます。キリスト教の文脈で考えれば、その真理はイエス・キリストにつながり、それは隣人を愛する行為へと導きます。敬和学園大学の「敬和」という名前は、先ほどお読みいただいた聖書の最も重要な掟から来ています。「神を愛し、人を愛する」を「神を敬い、人と和する」と言い換えて「敬和」とし、大学では、「人と和する」の部分をさらに能動的に「人に仕える」として、建学の精神としています。人間は社会的な動物ですので、置かれた社会の影響を少なからず受けています。グローバル化の進んだ時代には、自分とは違う政治体制の国で生活している人や異なる宗教や文化を持つ人、年齢や性別の違う人、学歴や職業、考え方の異なる人々と出会い、一緒に仕事をしたり、同じ地域で生活することもますます増えていくでしょう。まさに多文化共生の時代です。さまざまな場面で、すぐに役立つとは思われなかった教養が役に立ってくるでしょう。リベラルアーツの複眼的思考で、他者と協力してよい社会を築いていってください。

リベラルアーツ教育によって、多角的に考えることを学び、教養を身につけ、人に仕えることを良しとするこの大学で学んだ皆さんがこれからどんな仕事をするにしても、一人の良心的市民として、弱い立場にある人、孤立している人、誰かの援けを必要としている人のもとへと、皆さんを送り出したいと思います。リベラルアーツ教育は人間教育であり、その成果は卒業生一人ひとりです。どうか置かれた場で、小さな平和を築く人であってください。
隣人への愛、地球への愛を忘れずに、自由に羽ばたいてください。一度限りの自分の人生ですから、自分の頭で考えて生きてください。皆さんの進む道が照らされ、皆さんの上に豊かな祝福がありますよう祈ります。
以上を持ちまして、本日敬和学園大学を卒業されます卒業生へのはなむけの言葉といたします。

2023年9月19日
敬和学園大学長 金山愛子