学長室だより

2024年度卒業式式辞(金山愛子学長)

式辞を述べる金山学長


 

長い冬が終わり、冷たい空気の中にも春を感じる今日、皆さんは敬和学園大学での学びを修了し、人生の新しいステージへと飛び立とうとしています。卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。これまで支えてこられたご家族の皆さまの喜びもひとしおと思います。ご家族の皆さま、ご関係の皆さまにお祝いを申し上げます。

卒業にあたって皆さんが敬和学園大学でどのような学生生活を送ってこられたか、一緒に振り返ってみましょう。まず、敬和学園の「敬和」という名前は、「神を愛し、隣人を愛する」というキリスト教の最も重要な掟に由来しています。これを「神を敬い、人と和す」と言い換えて「敬和」とし、本学では「神を敬い、人に仕える」を建学の精神としています。「キリスト教教育」「地域貢献教育」「国際理解教育」を柱に、本学では「実践するリベラルアーツ」教育により、大学で得た知識や技能、自分自身の資質や時間を他者や地域と世界のために用いて貢献する人を育てるというのが私たちの教育の使命です。

それぞれの学科の学びでは、新しいことを学ぶ楽しさや豊かな知の世界に触れて心が躍ったことがあったでしょう。語学を学んで外国語で交流できたり、文化の多様性について学びを深めたこともあったでしょう。教職課程や社会福祉士養成課程の学びをやり遂げた達成感もあるでしょう。さまざまな学問を関連付けながら人間のことも世界のことも深く学ぶことができたと思います。思い込みや偏見から解放され、何が事実か、何が真実か、何が善かを見極めて自分の考えを形作り、対話すること。そうしてよき人間性を養うこと。これがリベラルアーツ教育の本質です。

さらに、そのような学びはアクションを起こす力へと育ちます。多くの皆さんが携わった地域活動や国際交流は、経験知と人間力を高めるだけでなく自分自身を知るのに役立ったことでしょう。ここ聖籠町や新発田市でのサービスラーニングやボランティア活動の数々は名前をあげればきりがないほどです。子どもたちへの英語教育活動や人権啓発活動、農福連携による生産物の商品化、地域の魅力や社会課題を見据えた映像制作や毎週のラジオ番組制作、新発田の魅力を伝える雑誌制作、サンタプロジェクト、異文化・異世代交流の場づくり、平和学習、環境保護活動、ローターアクトの活動など、活動領域は新潟県内に留まらず、県外、そして海外へと広がりました。海外研修や留学では新たな世界観を得ることができたでしょう。学生寮「向山寮」での共同生活は文字どおり他者と共に生きることを学ぶ機会となったと思います。スポーツで全国相手に戦うために身を削って精進してきた方々もいます。皆さんはよくがんばりました。このような経験は皆さんの血となり、肉となり、その言葉や人格に厚みを加えていくはずです。

今、ここで私は皆さんに「ありがとう」と言いたい。敬和学園大学の名前を背負ってここまでがんばってくれて、本当にありがとうございます。

皆さんが出ていく社会は人口減少、気候変動、人工知能の開発、グローバル化が進み、VUCA(ヴーカ)の時代と言われます。VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)を表す英語の4つのキーワードの頭文字で構成された造語で、あらゆる物事が激しく変化し、複雑かつ曖昧な様子が続いて将来の予測が難しい状態を示す言葉です。

私はこの春、国際女性デーに合わせて母校の同窓会がイギリスであり、ロンドンに1週間ほど行ってきました。そこで見てきたことは、将来の世界を担う皆さんの参考になる社会の在り方かもしれないと思い紹介します。

私が短い期間に見たのは、さまざまな人種との共生社会がイギリスで実現されているということです。イギリスはもともと移民の国ですが、Brexitに表わされるように、移民との共生が大きな課題となっています。世界を震撼させた2016年の住民投票で移民排除のEU離脱を選択したイギリスでしたが、今いる実に多様な人々との共存が進んでいるように見えました。さまざまな人種の人々があらゆるところで働き、実に親切で誇りをもって働いていることが伝わってきました。

博物館でも、宮殿でも劇場でも、多くの子どもたちがスタディツアーの形で来ていましたが、有色人種(黒人やアジア系やアラブ系など)のグループが多かったです。20世紀終わりに学校における民主主義と市民性教育に関する政策文書がイギリス政府に提出されて以来、市民性教育が学校教育に組み込まれることになりました。それから25年たち、イギリスの歴史や伝統文化に触れることも、異なる背景をもって集まった人々へのイギリスを知るためのプログラムとなりました。日本では「経験格差」という言葉も聞かれますが、家庭任せにしない教育政策を見たように思います。学校が子どもたちに教え、その教えを子どもたちが家庭に持ち帰り、親たちに伝えるというシステムが働いているようです。こうして国の政策として多文化共生の営みへの道筋を整えているように感じました。

日本でももっと外国人労働者や生活者が増えるでしょう。これまで見てきた社会を前提とした働き方、生き方を踏襲するのでは、皆が幸せな共生社会をつくることはできません。

本日表彰された皆さんの中には、自分の時間と思いとを他者のために捧げた方々がいます。自分が努力することによって他の人に勇気や希望をもたらした方もいます。チャペル・アッセンブリ・アワーでケーリ・ニューエル奨学金を授与された方々は、音楽や本を読むことなど、自分の好きなことを通してご自分の関心や思いと時間とを他の誰かのために捧げられました。学内・学外活動に携わってくれた方々も自分の成長のためだけでなく、結果的に誰かのために働いていたことも多いと思います。

これからは、男女間の格差だけでなく、世代間のギャップや人種の違いを乗り越えて共に協力しつつ働く時代に向かわなければなりません。一人でできることは少なくても、力を合わせてやればできることは大きいのです。女性もこれまで以上の社会への関与が求められます。

先の同窓会に参加されていた37年間国連で働いていたというドイツ人の女性は、何か仕事をオファーされたときに、自分の経験からすると、自信がなくて60%かそれ以下しか経験も知識もないなと思ったとしても、引き受ける。あとは男性がやってくれるからと話していました。男女問わず、年齢問わず、人種問わず、お互いの力を頼り合うことが共生です。

新しい時代を生きる皆さん。他者への愛とリスペクト、真理を求める姿勢をもった人間性豊かな人が今ほど求められる時はありません。まだ見ぬ人々、まだ知らない世界との出会いが皆さんを待っています。どうか「敬和」の意味する愛を忘れずに、よい変化をもたらす力となってください。そこに小さな平和が生まれていきます。

こうして、聖籠町の町民会館をお借りして、いつも大学の歩みを支えてくださいます西脇町長さまはじめご来賓の皆さまにはご臨席を賜り、お祝いいただきまして厚く御礼申し上げます。そして、卒業される皆さんに知っていただきたいのは、この場にいらっしゃらない多くの方々が、皆さんの学びのためにご支援くださっているということです。一人で学んだのではない、地域実践活動を特徴とする本学では本当にたくさんの方々に助けられてきたことを覚えていただきたく思います。このように、本学の教育の成果は卒業生一人ひとりであり、その答えは未来に託されます。

皆さんが特に困難にある時、「どうか、主があなたを助けて 足がよろめかないようにし まどろむことなく見守ってくださるように」(詩編121編)。キリストの希望の光によって皆さんの進む道が照らされ、その人生が祝福されますよう祈ります。以上をもちまして、本日敬和学園大学を卒業される皆さんへの、はなむけの言葉といたします。卒業おめでとう。

2025年3月19日
敬和学園大学長 金山 愛子