学長室だより

2002年度卒業式式辞(北垣宗治学長)

本日ここに、ご来賓各位と保護者の皆さまをお迎えして、敬和学園大学の第9回卒業式を無事挙行できますことをうれしく思います。
第9期生の皆さん、ご卒業おめでとう。

皆さんがこの難しい時代に、敬和学園大学に4年間学ばれ、20世紀から21世紀への橋を渡られ、晴れて卒業の日を迎えられたことは、皆さん自身にとって、またご両親さまにとって大きな喜びであると存じます。
うれしいことに、就職希望者の90%近くの諸君が就職の内定を得られました。
諸君のうちの4人は大学院へ進学されます。新潟大学大学院へ3人、国際大学の大学院へ1人です。
さらに今日は、本学の社会人学生第2号であった田中正範さんが、国際文化学科を第1位の成績で卒業されたことをご披露いたします。
また今日は、13年間にわたり敬和学園高等学校の校長を務められ、その功績甚大である榎本榮次先生に対し、本学の名誉学位を贈呈できますことは、これまた大きな喜びであります。

式辞を述べる北垣宗治学長

式辞を述べる北垣宗治学長

 

さて皆さん、これは運命のなんという巡り合わせでしょうか。
世界の多くの人々の憂慮と反対にもかかわらず、今日、アメリカがイラク攻撃を始めると伝えられています。
すでに、第2次湾岸戦争という言葉さえも使われています。
皆さんは、第1次湾岸戦争を覚えていますか。
それはちょうど敬和学園大学が出発しようとしていた時に起こったのでありました。
ですから私は、キャンパスの中に設けられた掘っ立て小屋式の時代の大学設立準備室のテレビに、あの時釘付けになって、その状況を見たことを思い出すのであります。
敬和学園大学は出発してからこれで12年になりますが、その12年は、第1次湾岸戦争と第2次湾岸戦争に挟まれた12年であったということになります。

ここで皆さんに、私の経験を少しお話ししてみたいと思います。
1956年といいますと今から47年前になりますが、当時、私はスコットランドのセントアンドリュース大学に留学していました。
その56年の夏に、世界史で「スエズ危機」と呼ばれる状況が起こったのでありました。
その発端は、エジプトのナセル大統領が、アスワンダムという国家的大事業を実施するのに財源を打ち切られたために、スエズ運河を国有化したことにありました。
スエズ運河会社の権益は、それまでずっと、イギリスとフランスが握っていましたから、英仏両国は、10月29日についにエジプトの攻撃に踏み切り、いわゆる第2次中東戦争が始まったのでした。
英仏両国は、ポートサイド地域に軍隊を送りました。
国連の和解決議を無視したこの行動は、国際的な非難を浴び、特にアメリカが冷静に対処することを呼びかけ、ついに英仏両国は、不承不承これを受け入れ、軍隊を撤収したのでありました。

世界史っておもしろいですね。
あの時は、英仏のはやる気持ちを米が抑制したのでした。今回は、米英のはやる気持ちを仏独が抑制しようとしていますが、今のアメリカは、それを振り切って突っ張ろうとしています。

セントアンドリュース大学の学生たちは、普段はのんきに学生生活を楽しんでいましたが、10月の新学期が始まり、スエズ危機がラジオや新聞で伝わると、まるで電気に触れたかのように、キャンパスの中に緊張感がみなぎりました。
当時、まだテレビは大学にありませんでした。
ですから、彼らは刻々と伝わってくるラジオニュースに、真剣に耳を傾けていました。
彼らもまた、いざとなれば兵士として戦場に送られる可能性があったからです。
当時のイギリスの学生は、定期的に軍事訓練を受けていました。

そのうちに日曜日となり、夕方に、私は、セントアンドリュースの街のバプテスト教会の礼拝に出席しました。
私の尊敬していたブラントン・スコット牧師が、その日にはどんな説教をなさるか、固唾を飲んで待ち構えていました。
牧師はその夜、多少青ざめた顔をして説教壇に登りました。
そしてこう切り出したのです。
「今夜、私は、長い説教をするつもりはありません。ナセル大統領の卑劣なやり方を思う時、私は一兵卒として銃を取り、スエズまで今すぐ飛んでいきたい思いに駆られます。」

私は祈りました。繰り返し祈りました。
そして与えられたメッセージはこれです。
“Be still, and know that I am God.” “Be still, and know that I am God.”
「静まって、我の神たるを知れ」(編集者注: 北垣学長の私訳)
詩篇46篇、10節(編集者注: 新共同訳では11節)の言葉です。
今日、私が痛感することは、超大国のメシア主義を戒める言葉として、これに勝るものはないということです。

2003年3月20日という今日は、おそらく、世界史に残る特別の日となるでしょう。
故に、私は同じメッセージを、今日卒業していかれる諸君にはなむけの言葉として贈りたいのであります。
易しい英語ですから暗記していただきたい。
“Be still, and know that I am God.”

アメリカは、この戦争によって厳しく裁かれると、私は確信します。
アメリカを裁かれる神は、私たちをも裁かれます。
しかし、その神は、同時にまた愛の神であり、私たちに神は和解を望んでおられます。

私は、今日の卒業式のために全く別の式辞を用意していたのでありましたが、イラク情勢の緊迫から、急遽、内容を変えたのであります。
そして、これは私が学長として、卒業式の式辞を述べる最後の機会となりました。

 

この日に卒業した学生たち(式典後)

この日に卒業した学生たち(式典後)

卒業される諸君に、神の豊かな祝福があるようにと祈ります。
そして、敬和学園大学が、これから先も神の御言葉に聞き従う大学として、そしてまた、この地域に奉仕する大学であり続けることを祈念して、式辞を終わります。

2003年3月20日
敬和学園大学長 北垣宗治