学長室だより

学生たちの熱心さに動かされて

新潟大学教養部の授業では、講義の他に演習の担当もあったので、M・ヴェーバー『古代ユダヤ教』を購読することにしました。二年次生の他に、入学した新入生も聴講に来たのです。難解な書物なので、かなりの予備知識が求められると、聴講受付の日に宣言をしました。しかし誰も取り消さなかったのです。彼らのやる気を感じたので、こちらも手抜きをしないことにしました。岩波文庫になる前のみすず書房の翻訳で演習を始めました。歴史年表を配布し旧約聖書の説明を行ったことを覚えています。他に、自主ゼミを開講するという情報も彼らに伝えました。
その後、自主ゼミを開いて欲しいという学生が2名、研究室を訪ねてきたのです。人文学部の学生で長岡高校の卒業生だと名乗り、旧約聖書のヘブライ語を学びたいと言ったのです。びっくりしました。クリスチャンでもない学生が、聖書を原典で読みたいというからです。信じがたいことでしたが、誰もやっていないことに挑戦したいというのです。熱意を感じました。最後まで諦めずに続けるならば、という約束を交わして自主ゼミを開始することにしました。噂を聞きつけて加わった学生たちを含め、5名ほどでヘブライ語文法の学習を開始しました。この自主ゼミの伝統は、退職するまで26年間続くことになるのです。毎年6名から8名くらいの参加者があり、一年間で文法を学習し、二年目からは創世記を原典で読むという自主ゼミも始まりました。原典購読が自主ゼミではもったいないというので、正式な演習科目として開講するまでになりました。誰一人として途中で脱落した学生はいませんでした。学生諸君の熱意がそれを可能にさせたのだと思っています。(鈴木 佳秀)