学長室だより

ワードプロセッサーの衝撃

教員時代の思い出では、何といってもワープロが開発されたときのことです。教養部の同僚から、タイプライターでなくワードプロセッサーが開発されたという噂を聞かされたのです。全くイメージが浮かばなかったことをよく覚えています。その後、工学部でデモンストレーションがあるので、見に行かないかと誘われました。見に行きました。そこで見たのは、東芝製ルポという最初期の機種でした。キーボードはタイプライターと同じなので理解はできたのですが、細長い画面に文字が2行だけ表示されるというものでした。日本語を入力すると、液晶画面にひらがなが映し出され、それを漢字に変換するという操作を見せてくれました。衝撃でした。
留学中は日本から持参したタイプライターを打ち続けて論文を書いていたのですが、電動タイプライターが出たときに、それを購入したくらい機械が好きだったのです。高校1年まで機械工学を志望していたくらいですから、新製品が出ると試してみたくなる性分でした。ボール式の電動タイプライターをアメリカで購入したのは、ボールを交換するだけで、ギリシア語やヘブライ語が打てたからです。そのタイプライターは日本に持ち帰り、しばらく使っていました。
英文原稿はいいのですが、日本語の原稿を書く際に問題を抱えていたのです。手書き原稿を論じる主題に即して書くのですが、考えや気持ちの方が先に先へと進みすぎて手が追い付かず、数頁続くと字が崩れ始め、まるで躍っているかのようになるのです。後で読むと、自分で何を書いたのか分からなくなるほどでした。ルポを見たとき、手書き原稿から解放されると確信し、「わたしの時代が来た」と思ったのです。(鈴木 佳秀)