学長室だより
美しい秋の日に
美しい秋晴れの日には、八木重吉の「素朴な琴」という詩を思い起こします。
「このあかるさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美しさに耐へかねて
琴はしづかに
鳴りいだすだろう」
15年程前の秋の日に、東京都八王子市の裏山にあたる町田市相川町大戸の重吉の生家を訪ねたことがあります。少し高台にある家に入る坂道を登っていくと、大きな自然石に重吉のペン字を拡大して、「素朴な琴」の詩が刻んであります。家の前の旧道の脇には神戸に近い御影師範学校教諭時代に詠んだ詩「ふるさとの川」と思われる小川がありました。
「ふるさとの川よ
ふるさとの川よ
よい音を立てて流れていることだろう
(母上の白い足をひたすこともあるだろう)」
最後の一行は後で削除されますが、私は削除される以前の詩の方が印象に残っています。辺りはかなり開発されていますが、重吉の生家付近はまだ昔の面影を残していました。(山田 耕太)