学長室だより

2023年のクリスマスに寄せて

この一年を振り返り、今年のクリスマスに思いを寄せたいと思います。今年は世界でも日本でも戦争をはじめとする暴力に胸の痛む年でした。ロシアによるウクライナ侵攻は多くの人々と町を痛めつけ、もうすぐ2年になるというのに停戦の糸口が見えません。10月にはパレスチナでも、イスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦争が多くの民間人を犠牲にし、ガザの町をがれきの山にしてしまいました。戦争の影響は日本にもおよび、燃料費等の高騰のため暮らしに打撃を与えています。気候変動の問題もグローバルな課題です。今年の夏は暴力的な暑さで農作物や果樹、家畜に甚大な被害が出ました。他方で、東京オリンピックや大阪万博には莫大な税収が投入されています。政治家の裏金問題も浮上し、国民の政治不信は強まるばかりです。夢を追う若い人々を搾取する芸能界の暴力が明るみに出ました。子どものころから親しんできた美しい海が、そこに住んだこともない人々の権力による意思決定で、奪われてしまう人々もいます。ささやかながらも穏やかに暮らしたいという願いがいとも簡単に打ち砕かれるのをこの一年見てきました。

しかし、若者の活躍に胸躍るできごともありました。3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での日本チームの優勝に興奮した人も多かったことでしょう。大谷翔平選手の勝つことへの執念とそのための肉体的・精神的な強さを見ました。決勝戦では、指名打者を解除して途中から登板することになりブルペンで投球練習をする姿に、「ブルペン(「牛を囲っておく囲い」の意)というのは、こういう鼻息荒い投手(牛)を囲っておくからそういう名前なのか」と合点がいきました。将棋の藤井聡太八冠は、21歳という史上最年少で八冠達成という偉業を成し遂げました。AIを相手にも練習しているそうですが、先の先を読んであれだけ長い時間考えられるのも、日々の精進の賜物でしょう。こういう若い人たちが多くの人を元気づけたことと思います。

12月22日は前日から降り続いた雪のため、交通に大きな影響が出ました。大学の駐車場に車を停めると、白鳥の声がします。上を見上げると、雪空を背景に3羽の白鳥のお腹が見えました。雪空の白とは対照的に、血の通った生命力を感じさせる温かい白でした。雪の中のクリスマス燭火礼拝では、下田尾宗教部長から「光は闇の中に輝いている」と題して、街を彩るイルミネーションのように時期が来たら取り払われる光ではなく、この暗さを増す世界で、家畜小屋で生まれた方こそが世界を照らす命の光であるという心に残る説教をいただきました。その後、KEIWA Choir(合唱隊)の皆さんが、クリスマスの歌で賛美してくださいました。その中の一曲、パウル・ゲルハルト作詞、J.S.バッハ作曲の「まぶねのかたえに われは立ちて」で始まる讃美歌21-256番は、幼子イエスの眠る飼い葉桶の傍らに立つバッハの姿を想像させます。

クリスマスツリーにも雪が積もりました

クリスマスツリーにも雪が積もりました


燭火礼拝では山﨑ハコネ先生手作りのアドベントリースにも火が灯されました

燭火礼拝では山﨑ハコネ先生手作りのアドベントリースにも火が灯されました


 

  「きらめく明か星 うまやに照り / わびしき乾草 まぶねに散る / こがねのゆりかご 錦のうぶぎぞ / きみにふさわしきを」

黄金のゆりかご、錦の産着こそがふさわしい方が、旅人の子として貧しい家畜小屋で生まれたクリスマス。最も低くされた方だからこそ、今戦地で悲惨の中にいて泣いている子どもたちと共にいてくださる。砲撃の不安におびえる人々と共にいてくださる。底知れぬ苦難の中にある時に最も近くなられる方。クリスマスが祝う平和の君、王の王はそういう方です。命の温かさを帯びた白く輝く平和と希望の光が暗き世界を照らし、私たちの暮らすこの小さな一角にもその光が届きますように。

今年一年、皆さまからいただきましたご支援に感謝いたします。来る年が平和で幸せな年となりますようお祈り申し上げます。(金山 愛子)