学長室だより

小ジカの可憐さ、オオカミの迫力

先週末の敬和祭はお天気に恵まれ、ボリュームある企画のおかげで大変賑わいました。ご協力くださった皆さま、ありがとうございました。10月26日の大竹英洋氏の講演会「ノースウッズの旅~北の森にオオカミを探して~」も盛況で、遠くは神戸からお越しいただきました。オオカミを探してノースウッズに入った大竹さん。たくさんの写真や動画を見せて心に残るお話をしてくださいました。雄のムースを呼び寄せるためにシラカバの皮で作ったメガホンで雌の鳴き声を真似してみせてくれました。するとどうでしょう。丈高い草の向こうに何か動くものがあります。ブルッ、ブルッという音を立てて出てきたのは巨大な雄のムースでした。いるはずの雌がおらず匂いもしないのでおかしいなと思って帰っていったムースはさぞ混乱したことでしょう。森の中を歩いて倒木をまたごうとすると茶色に縞模様が。あぶなく踏んづけそうになってよく見ると、生まれたばかりのオジロジカの赤ちゃんでした。まつげの長い目を見開いて大竹さんと目を合わせてまた眠ってしまったようです。これは天敵から身を守るためのフリーズという本能なのだそうです。野生の森には多様な生き物が身を守りながら生きていて、その健気さや生命力に心打たれます。さて、当初の目的のオオカミはどうなったのでしょう?オオカミにはなかなか出会うことはできませんでしたが、とうとう足跡を見つけます。降りしきる雪の中、その足跡を追っていきますが、行き詰まってしまった大竹さんはオオカミの遠吠えをしてみます。かなりの迫力でした。すると森からいくつもの声が呼応してきます。そして・・・。「オオカミに囲まれたらどうするんですか?」と思いながら見ていました。

写真家 大竹英洋氏の講演会(敬和祭1日目)


 

ジム・ブランデンバーグという写真家の弟子になりたくてノースウッズへ出向いた大竹さんは、苦労してようやくジムさんに出会いますが、アシスタントになる話は断られてしまいます。しかし2人の交流は続き、大竹さんとの2人の関係を同じ道を歩んだ「兄弟の絆」と語ります。断られて諦めるのではなく、自分の道を模索していくことでこのような関係性へと導かれたのですね。マイナスをプラスに変える力は自分の中にあるのだと教えられました。素人の聞くことですが、「森の中に一人でいて怖くないですか?」とお尋ねしたところ、「全然」との答えが返ってきました。「学生時代のワンダーフォーゲル部で経験は積んできたし、1週間嵐でヘリが飛ばないというような時にも十分な備えをしている」とのことでした。ジムさんは大竹さんの写真集『ノースウッズ-生命を与える大地』を「情熱の一冊」と呼びます。怖くないのも情熱のなせる業かもしれません。周到な準備を怠らず情熱を秘めた爽やかな写真家の姿には、応援したくなるものがありました。(金山 愛子)