学長室だより

カッコウと文学

皆さんは今年、カッコウの声を聞きましたか?昔、霧の立ち込める八幡平でカッコウの声を聞いてから、私はその声を聞き逃せなくなりました。あのくぐもった声の主は姿を見せることはめったにありませんが、イギリス人にとっては春の訪れを告げる鳥だそうで、ロマン派の詩人ワーズワースは”To the Cuckoo”(カッコウに寄す)という詩で、「神秘」を思わせるこの鳥を探し回った少年時代を回想します。

H. E.ベイツの短編”Death in Spring”(春の死)でも最後にカッコウの声が聞こえます。まだ春浅い森を舞台に、若い生命の数々と死を思わせる要素が微妙に絡み合って語られる物語です。主人公の「僕」は森の中で老人と出会うのですが、キツネの親子が時々姿を現す禁猟期の森に銃を携えてやってきた老人は、何を考えていたのでしょう。この老人の意識の流れについて分析し、タイトルが何を表すかを論じたレポートを書いた学生さんがいました。老人と別れた後で、主人公は銃声を聞き、森は「死んだように」静まり返ります。その音が何を意味するのかを読み解く作業が読者に委ねられるわけですが、そのレポートは、帰り道に拾ったクロウタドリの卵の殻に着目して結論づけています。森の外に出た時、少年はカッコウの初鳴きを聞き、「老人もその声を聞いただろうか、この春老人はカッコウの声を何度聞くだろうか」で物語は終わります。カッコウにちなんで思い出した文学作品とレポート。10年前に私の心を震わせてくれた学生さんは卒業して、今新潟市内のホテルでがんばっておられます。(金山 愛子)

H.E.ベイツの書籍

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