学長室だより

「畏神不恐人」(神を畏れて人を恐れず)

英語文学の授業で、ジョージ・オーウェルの『1984年』というディストピア小説を紹介し、作品の一部をみんなで読みました。それはある党が支配する監視社会を描いた未来小説です。「私たちの社会に、このような監視社会的な側面はあるだろうか?」と学生に尋ねたところ、「監視カメラ、SNS上の言論の監視、検索履歴の収集等に監視を感じる」という意見が多数あり、「常に自分の行動は他人から監視されていると強く感じる」「SNS上の炎上や拡散を怖れて、本音を書きづらい」「誰かに見られていると感じてしまい、発言を抑える」という声がありました。スマホの普及やSNSで便利になった反面、ネット上の監視を意識して、若者は息苦しい思いをしているのだと知りました。ちょうどその朝に聞いたラジオでは、「キラキラした写真をアップする友だちのインスタグラムを見て落ち込む」という相談に対して、「SNSから少し離れてみること」「シンプルに生きることの幸せを感じてほしい」という助言が与えられていました。コロナ禍の渦中にある時、歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリもコロナのニュースをたえずチェックすることから離れるようアドバイスしていたことを思い出しました。一つのことが気になりだすと、私たちはそのことに支配されがちです。「畏神不恐人」(神を畏れて人を恐れず)という内村鑑三の言葉があります。いつの時代にあっても実行するのは難しいことですが、真に畏れるべき方がおられることを心に留めてほしいと思います。そしてその方は、「私は道であり、真理であり、命である」とおっしゃる「愛」の方です。SNS上の不特定多数と信頼関係を結ぶことは不可能でしょうが、せめてこの学び舎で学ぶ人々が自由に考え対話しながら真理を求め、恐れから解放されて自由になれるよう、愛と信頼を築けるよう祈り求めていきます。(金山 愛子)

基督教独立学園高校の講堂にある「畏神不恐人」