学長室だより

私の受けたリベラルアーツ教育(1)

この季節になるとメープルの燃えるような赤い葉に彩られた北米ニューイングランドのアマースト大学を思い出します。このリベラルアーツカレッジで、私は内村鑑三奨学生として2年間学びました。どんな学びだったか紹介しましょう。2学期制で、1学期にとる科目は4科目だけ。講義系は週2回で講義とディスカッションで進められ、語学は週3回+LL。ギリシア語文法は、LLの代わりに先生が夜に補習してくれました。4科目なら楽だと思われるかもしれませんが、どうしてどうして。英文学の授業では、教科書を1学期に6~8冊買わされ、次回までに100ページ読む課題も頻繁にありました。クラスで共有する文献は、図書館で2時間だけ借りられて、その間に必死で読んで返しに行きます。図書館は11時か1時まで空いていました。ペーパーもたくさん書きました。書くのは読むのに勝って大変でしたが、友達が見てくれたり、ライティング・カウンセラーという方がいて助けてくれたことは本当にありがたかったです。先生はバッサリ切るのも含めて、必ずコメントをつけて返してくれました。1年目は英語は分からないし、読むのに時間はかかるしで、1日に授業外に10時間くらい勉強していました。そうしないとついていけなかったのです。履修の自由度はかなり高く、専攻以外の科目も履修できたのはリベラルアーツカレッジだったからだと思います。今思うと、提供されていた英文学の授業科目群は、キャノンと言われる英文学作品をほぼ読破できるようなカリキュラムでした。私はちょっと楽をするために、日本で少し学んだことのある語学や楽しそうなダンスもとりました。ところがギリシア語の難しいこと。ホメロスの『イリアス』の最初の7行を読むのに2時間かかりました。でも不思議なことに、次の14行も2時間で読めるようになり、だんだん速度が上がりました。試験前になると、同じ授業に出ていたイタリア人留学生の女の子と、「風呂に入ってないけど匂う?」なんてお互いに話してました。どの授業でも読み書きの徹底した訓練を通して専門的な知識や問いをたてる力を獲得し、その過程で自分の頭で考え表現する力を養成していたのだと思います。

このように書くと勉強しかしていない印象ですが、アメリカ人の学生、特にプレップ・スクールという進学校出身の学生たちには部活動やさまざまな活動を楽しむ余裕がありました。学生によるコンサートや演劇などの公演もキャンパス内の劇場でしばしばあり、すばらしい『ハムレット』を演じてみせた学生は、後にハリウッド映画俳優になりました。

日本はシラバスをはじめ、いろいろな教育システムをアメリカから導入していますが、「学生は勉強するもの」というマインドセットも併せて取り入れなければ、日本の大学はなかなか変われないのではないかと思います。(金山 愛子)

アマースト大学時代の金山学長

アマースト大学時代の金山学長