学長室だより

他者と出会う ~新入生歓迎公開学術講演会を終えて~

キャンパスでは八重桜の花吹雪が舞い、聖籠町の果樹園ではさくらんぼの白い花が満開で、新緑が目にまぶしい季節となりました。入学式から3週間がたち、新入生は大学生活に戸惑いを覚えつつも、楽しみも見いだしているようです。

4月12日の新入生歓迎公開学術講演会では講師に山本精一先生(元基督教独立学園高校長、元四国学院大学教授)をお迎えして、大変恵まれた時間を持つことができました。「リベラル・アーツが目指すもの」と題するこの講演は、これまで聞いたり読んだりしたリベラルアーツの話とは違っていました。それは「共に生きる」という生き方とリベラルアーツを直結させて話されたからだと思います。大学の学びでは「批判的思考」という言葉はよく聞きますが、山本先生は「批判的・対話的思考」という2,500年前のソクラテスの哲学にさかのぼって紹介され、この戦争と憎悪の噴出する時代に投げ込まれている私たちがリベラルアーツを学ぶことでできることを深く力強い言葉で語ってくださいました。世界の崩壊を避けたいのなら、「だれかが考えてくれるだろう」という他人任せではなく自分で考え、他者と出会ってその言葉を真剣に聞き、他者の立場に立って考え、対話する、こういう生き方が極めて重要であると話されました。

山本先生がこのような考えにいたるルーツは大学時代に教会で開かれていた「オモニ(お母さん)ハッキョウ(学校)」での出会いにあったようです。これまで文字を学ぶ機会を奪われてきた在日韓国人のお母さんたちが、震える手で鉛筆を握って学び、消しゴムの山のような消しかすを自分のかばんに入れて帰る姿を見て、彼女たちから言葉と尊厳を奪ってきた側に自分が立っていることを痛恨の思いを持って心に刻まれたのでした。他者の今ある姿だけを見るのではなく、その方が歩んでこられた苦しみの歴史に敬意と思いやりを持つことの重要性も説かれました。人文学を学ぶ意味をあらためて知らされました。「私はこの人々と共に生きていたのだろうか、私はこれから誰と共に生きていくのか、生きていきたいのか。」山本先生の講演には学生たちの真摯な応答が寄せられました。敬和学園大学で学ぶ学生たち一人ひとりに、どんな他者との出会いが待っているでしょうか。(金山 愛子)

新入生歓迎公開学術講演会を開催しました(左から、下田尾宗教部長、山本先生、金山学長)